#363

ソウルミューの父親と思われる男は、部屋に入るとステレオの電源を切った。


そんな彼にソウルミューは声を荒げる。


「なに勝手に切ってんだよ! つーか今頃何しに来やがったッ!?」


「父親が家に帰って来ただけだ。それなのに、その態度はないだろう?」


「うるせぇ! 今までずっと放って置いて今さら父親ヅラしてんじゃねぇよッ!」


ダブがその白髪交じりの男を見ていると、シストルムはソウルミューの肩からテーブルの上へと降り、その口を開く。


「ブルースというのか。貴様の父親は……」


名乗ってもいないのに――。


いや、言葉を話す猫に驚くことなく、ソウルミューの父親ブルースはシストルムの前に立つ。


「これが神具シストルムか」


ブルースはそう言うと、シストルムの身体を抱きかかえた。


そして、何も言わずにそのまま部屋を出て行こうとする。


「下郎風情ふぜいが、我に触れるな!」


シストルムは先ほどソウルミューにやったような攻撃を仕掛けようとした。


だが、ブルースには通じないようだった。


驚いているシストルムに彼は言う。


「無駄だよ。私に精神攻撃は通じない。悪いがこのまま私と来てもらう」


「ちょっと待てよてめえッ!」


ソウルミューはシストルムを連れて行こうとするブルースの肩を思いっきり掴んだ。


そして、無理矢理に部屋に引き戻すと、ブルースのことをにらみつける。


二人の関係がよく理解できないダブは、そんな彼を止めることもできず、ただ見ていることしかできなかった。


「てめぇがどこへ行こうと何をしようと構わねぇが、その猫を連れて行くな。そいつはリズムのもんだ」


「今は詳しいことを話している時間はない。悪いが、リズムにはお前から上手く言っておいてくれ」


「ふざけんじゃねぇッ!」


ソウルミューはブルースの胸倉を掴んで壁に叩きつけた。


彼は、今にも殴り掛かりそうな態度で声を張り上げる。


「何もかも奪っておいて、その上あいつの大事な猫まで奪うのかよ! それでもてめぇは父親かよッ!」


「時間がないと言っただろう。今はお前と話している暇などないのだ」


「そう言っていつもてめぇはッ!」


ソウルミューがそう叫んだ瞬間――。


突然閃光が部屋を包み、轟音が鳴り響いた。


気が付くと天井は崩れ、ソウルミューの家は粉々に破壊されていた。


だが、ソウルミューとダブには怪我一つなかった。


二人が顔を上げると、そこには掌から光を放って彼らを守るブルースの姿があった。


「すでに来ているか。これは急がねばならん」


「おい! 何なんだよこれは!」


「時間がないのだ。それよりもお前にはリズムのことを任せたぞ」


ブルースはそう言うとシストルムを抱いて走り去って行ってしまった。


ソウルミューはダブにブルースを追うぞと声をかけた。


だが彼には、白銀髪の女ミウムによって付けられた電子手錠があるため、勝手に動いたことが知られたら殺されてしまうと言う。


「これが付いてる限り、僕は彼女たちの言いなりになるしかないんだよぉ」


右手を掲げて見せるダブに、ソウルミューは声を張り上げる


「そんなもんオレがすぐに外してやる! いいから貸してみろ!」


ソウルミューは崩れた家の残骸からドライバーを取り出すと、ダブの電子手錠へと突き刺した。


するとどういうことかロックが解け、手錠が外れる。


「凄いッ! どうやったの今の!?」


「いいからあいつを追うんだよ! お前も急げッ!」


ダブは何故自分までと思いながらも、必死の形相で訴え掛けてきたソウルミューの後についていった。

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