#345

その後、通信機器を見つけてストリング帝国の本国へと電報を送ったジャズは、プロコラット、ユダーティ、ニコと共に礼拝堂へと向かう。


着慣れない法衣に身を包み、使い慣れない自動小銃を手に持って走るジャズは思う。


本当に魔術なんてものがあるのか。


たしかに奇跡人スーパーナチュラルの力には謎が多く、科学で解明できていないことが多い。


理屈でいうのなら、加護をという正体不明の魔術オカルト魔術オカルトで封じているということなのだろうが。


やはりわからないことが多過ぎる。


「ねえ、そのヴェルサーって女はあなたの力を封じている以外にどんなことができるの?」


「あん? わかんねぇよ。俺、すぐ捕まったし。あッ、でもユダーティならなにか見てるかもな」


プロコラットがユダーティに話を振ると、彼女は表情を動かして彼に何か伝えていた。


そんな二人の様子を見ても、ジャズやニコには一体何を伝えようとしているのかわからなかった。


だが、何故かプロコラットには伝わるようで、彼はユダーティから教えてもらったことを説明し出す。


「なんか手からパッと光が出てるんだってよ」


「いや……それだけじゃなにもわかんないんだけど……」


「だから手からパパパ~ッと光が出んだよ」


「もういいわ……。聞いたあたしがバカだった……」


ジャズはプロコラットの説明を聞いて、苦虫を嚙み潰したような顔になった。


おそらくだが、ユダーティはヴェルサーにどういう力があるのかを見ているのだろう。


だが、肝心の彼女の言いたいことがわかるプロコラットには、それを説明するだけの語彙力がないのだ。


かといって、喋れないユダーティからその力を教えてもらうほどの時間はない。


立ち止まってから紙やペンを使って説明を知るひまは、今のジャズたちにはないのだ。


「ともかくそのヴェルサーって女の出す光には気をつけろってことだね」


「なんだよ、ちゃんと伝わってんじゃねぇか。そうそう。ようはパッと出るヤツに気をつけろってことだよ」


ジャズの言葉を聞いてプロコラットは満足そうにしていたが、彼に説明をしたユダーティは申し訳なさそうに両方の眉を下げていた。


そんな彼女の肩をポンッと叩くジャズに続き、ニコも「気にしなくていいよ」と言わんばかりの優しい声で鳴いた。


だが、自分はそんな魔術師のような奴に勝てるのか。


ジャズはそう思ったが、ミックスを一人残して逃げることだけはできない。


ここはなんとしてもヴェルサーがプロコラットにかけた術を解いて、全員で脱出するのだと、改めて覚悟を決める。


そんな強張った表情で走っているジャズに、今度はユダーティが彼女の肩をポンッと叩いた。


そのときのユダーティの顔は、「私たちもいるから一人で抱え込まないで」といっているような穏やかな顔をしていた。


そんな彼女を見たジャズはクスッと笑う。


「おッ、なんだよ? 女同士で内緒話か? 俺も混ぜろよ」


「ホンット男っていいよね。そうやって能天気で自分勝手で。あたしも男に生まれたかったな」


「急になに言ってんだお前? 頭使い過ぎておかしくなっちまったのかよ?」


「そうだね。あんたの兄弟のせいであたしはいつも走らされてる」


ジャズが何を言っているのかわからないプロコラットだったが。


彼女の表情を見て「まあいいか」と笑い、彼につられたのかユダーティも笑顔になる。


そして、すでに走り疲れているニコも、まるで笑うように大きく鳴いた。


「さあ、礼拝堂が見えてきたよ。中に入ったら先手必勝。ヴェルサーのみを狙っていくからね」


「まだ会ったばかりだがわかったわ。お前ってかなりの仕切り屋なんだな。ま、ミックスにはピッタリの女だと思うぜ」


「うっさいッ! その話はもういいからッ!」

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