#316

突然揺れ始めたことでブレイクの乗っていたエレベーターは停止。


暗部組織の面々のこの異常事態に何か起きたと察したのか、外部と連絡を取っていた。


階段のあるフロアから突如地面が盛り上がり、それが土台となって物凄い速度で上最上階へと昇っている。


おそらく聞いていた白銀髪の女と脱走したブレイク·ベルサウンドだ。


各員はすべて現場へと急行せよ――。


その会話を傍で聞いていたブレイクは、早速始まったと苦虫を嚙み潰したような顔になる。


(あの女……何も言わずに勝手に始めやがってッ!)


とりあえずミウムのところへ敵を寄せ付けないようにしなければ――。


ブレイクは内心で苛立ちながらも、全身ホログラムを解いてエレベーター内にいる組織のメンバーに自分の姿をさらした。


彼の姿を見た全員が冷静に拳銃タイプの電磁波放出装置――オフヴォーカーを向ける。


だが、この狭いエレベーター内では銃よりもブレイクのほうが有利だった。


ブレイクは両手に白い刀と黒い刀――小雪リトル スノー小鉄リトル スティールを持って彼らを一蹴いっしゅうする。


回転しながら斬りつけ、オフヴォーカーから電磁波が発射される前に彼らを無力化。


ほんの数秒でエレベーター内にいた者ら全員の意識を刈り取った。


ダイナコンプから出せされている電波の影響により、リトルたちの加護による身体能力の向上がなくともブレイクは強い。


それは、彼が日々の鍛錬をおこたっていないことの証明であった。


「久しぶりの感触だ。やっぱお前らを使った二刀流はよく馴染む」


ブレイクは二本の刀――小雪リトル スノー小鉄リトル スティールへそう声をかけると、エレベーターから出て最上階を目指した。


――その頃、ミウムは最上階へと辿り着き、会議室へと踏み込もうとしていた。


だが、そこには顔立ちの整った長身の青年――ラヴヘイトが立っている。


「白銀髪で機械の腕を持つ女……。お前か、ブレイク·ベルサウンドの仲間は? たしか屋敷であったよな?」


着ているジャケットのポケットから両手を出したラヴヘイトは、ミウムへと近づいていく。


「わりぃが、上層部の連中に用があるのはお前だけじゃねぇ。ここから先は行かせねぇよ」


「そうか。だが、こちらは重要な案件でな。何があっても先に行かせもらうぞ」


奇遇きぐうだな。俺のほうも重要な案件なんだ。そのために仕事をほったらかして来てみれば、まさかの遭遇そうぐうをしちまっ――」


ミウムはまだラヴヘイトが話している途中でレーザーガトリングガンを発射。


六本の閃光が彼の体へと降り注ぐ。


だが、受けたラヴヘイトの身体中心に彼の周囲の空間が歪む。


そしてレーザーはラヴヘイトの身体を貫くこともなく、そのまま彼の身体に収まっていった。


「効かねぇな。たとえレーザーだろうが核だろうが、俺がその攻撃の原理を理解している限り、還元法リダクション メゾット はどんなものでも吸収しちまう」


還元法リダクション メゾット とは、あらゆる種類の運動エネルギーを吸収し、 自らの望む形に変換して放出するラヴヘイトが持つ特殊能力だ。


当然殴られても斬られてもビクともしないし、爆発、核エネルギーなども吸収できる。


吸収したエネルギーは、身体能力、腕力、耐久力、治癒力などの増強、エネルギーブラストとして利用することが可能。


だが、自動的に発動できるものではないため、意識が途切れたり不意打ちには弱い。


さらに今彼の口から語られたが、ラヴヘイト自身が相手の攻撃の原理を理解していないと発動できない仕組みのようだ。


「兵器研究所から盗まれたのは半導体だとか聞いてな。お前が使っているのは、半導体に電流を流してレーザ発振させる素子がメインだろ? つまりは高出力のLEDみたいなもんだ」


「なかなかの知識と洞察力だ。大した男だと認めざる得ないな」


「だが、わからねぇことがある。今アーティフィシャルタワー内にはダイナコンプが妨害電波を出していて、特殊能力のたぐいは一切使えないはずだ。なのに、お前はどうして能力を使える?」


ラヴヘイトは訊ね続ける。


「俺はプラットホームステレオでその電波を妨害しているから能力が使えるが、見たところお前は妨害することなく能力が使えているようだ。その秘密を教えてもらいたいんだが?」


「お前に話すことはない。私の標的はそのドアの向こうだ。なるべくなら目標以外は殺したくない。死にたくなかったら退いてくれ」


愛想なく言うミウムの態度に、ラヴヘイトは眉間にしわを寄せるのであった。

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