#310

ミウムの能力で地面の中を移動し、ようやく地上へと出たブレイクたち


周りは人気ひとけのない森の中だ。


ここがどこかはわからないが、とりあえず街頭にある防犯カメラシステムなどはなさそうだ。


ブレイクがまず考えたのは、どこか落ち着ける場所へ行くこと――。


だが、自分たちがどこへ身をひそめればいいのかを悩む。


おそらく、すでに組織はブレイクが脱走したことを知って動き出している頃だろう。


これまで使っていた宿泊施設や利用していた飲食店、生活用品店なども見張られている可能性がある。


迂闊うかつに動けば捕まる。


しかし、いつまでもじっとしているわけにもいかない。


誰かを頼ろうにも、持ち歩いていたエレクトロフォンや伸縮式の剣などもすべて没収されたままだ。


一体どうすればいいのかと、ブレイクがうなっていると――。


「私のことを話した者たちには頼れないのか?」


「……連絡が取れなきゃどうしようもねぇだろ」


ミウムが愛想なく言ってきたので、呆れた様子で返事をした。


それはまだ伝えていないのに、彼女がジャガーやリーディンの話をしたからだった。


P-LINKで頭の中をのぞかれているのだから当たり前といえば当たり前だが、正直良い気分はしない。


それでも怒鳴り返さなかったのは、ブレイクも彼女の性格を理解してきたからだろう。


この白銀髪の女は他人にあまり興味がないのだ。


善悪という概念がいねんあるのかも怪しい。


(いや、わざわざ世界を救うために未来から来たんだ……。この女が善人ではあることはたしかだ。それに、捕まったオレのことを助けに来たし……)


内心でミウムへと評価を考え直すブレイク。


前にも聞いていたが、この女は生まれてからすっと他人と関わって来ない人生だったのだ。


他人がどう思うかなど、これまで気にしたことがないのだからしょうがない。


そんなことを思っていたブレイクに、ルーツーが声を掛ける。


《お前が通っていた学校の同級生とかは? 一人くらい家の場所知ってる奴はいるだろ?》


「……そんなヤツはいねぇ」


《あッ……わりぃ、そこは触れちゃいけないとこっぽかったな》


ルーツーが詫びるとミウムが黒羊に訊ねる。


「うん? 何が触れちゃいけないところだったんだ?」


《おいおい、話を蒸し返してやるなよミウム。つまりブレイクは学校に友達がいないから、そこんとこは言及げんきゅうしてやるなってことさ》


「友達がいないことが何か不味いのか? 命の危険があるとか?」


《この時代じゃそうかもな》


「だが、ブレイクは気にしていなさそうだぞ? 大丈夫なのか?」


《無理してんだよ。いいからミウム、この話は止めだ。お~いブレイク、悪かったな。お前の寂しい青春をいじるような真似をしてよ》


「気にしてねぇよ! んなこたぁッ!!」


ブレイクは、ルーツーの謝っているのかよくわからない謝罪に怒鳴り返した。


ミウムは何故ルーツーが謝ったのかも、ブレイクが怒っている理由もよくわからないようで小首をかしげている。


そのときブレイクとミウムは、何かが近づいて来ることを感じた。


「この感じ……敵ではなさそうだが」


「ああ、オレの大事な家族だ」


ブレイクがそう言うと、暗い森の中から二匹の犬が現れる。


その二匹は、彼と妹のクリーン·ベルサウンドに加護を与えている妖犬――小雪リトル スノー小鉄リトル スティールだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る