#279

両目を見開いているメディスンを見た三人は、何をそんなに驚いているんだと思っていた。


そのベクターという男がリーダーになるのがそんなにおかしなことなのか。


今イーストウッドが話したことによれば、共和国を作った男の一人といっても過言かごんではない経歴だ。


それとも同じく古株であるメディスンは、この新たにリーダーに選ばれた男と何か因縁いんねんでもあるのか。


ブレイク、リーディン、ジャガーの三人は、メディスンの態度を見て同じことを考えた。


ホテル内の部屋がそんな緊張状態になっている中で、目の前の立体映像――ホログラムに映っていたイーストウッドから違う男の姿に変わる。


そのホログラムの男は隻眼せきがんなのだろうか。


眼帯を付けたままで、顔には深いしわと刃物のよると思われる古傷が刻まれている。


《初めましての者が多いかな? 私が新たに暗部組織ビザールを指揮するベクターだ》


それからホログラムのベクターは簡単な挨拶をすると――。


《今まで多くの問題があった。彼もその一人だったが、これからは我々と共にこの共和国を盛り立てる。その男は誰もが知るハザードクラス――ラヴヘイトだ》


バイオニクス共和国にある刑務所――監獄プレスリーから脱走した還元法リダクション メゾットラヴヘイトのことを口にする。


それは、ベクターだけでなくラヴヘイトもビザールに参加するという話だった。


その発言には、さすがにブレイクたちも驚く。


ラヴヘイトは、生物血清バイオロジカルの協力によって脱走したのだ。


それはつまり、彼がビザールの敵対組織のメンバーであることに他ならない。


「おいおい、マジか……?」


「これって……おかしくない? だってラヴヘイトは生物血清バイオロジカルでしょ? それがビザールに入るって……」


ジャガーとリーディンがそれぞれ声をあげる。


ブレイクは何も言わなかったが、その顔を見れば彼が納得がいってないことがわかる。


ベクターはそこからさらに話を続ける。


《我々と彼、そして共和国上層部とで話し合った結果。奇跡人スーパーナチュラル呪いの儘リメイン カースなどの特殊超能力を持つ者は、この共和国では登録することにし、我々ビザールで管理することになった。まあ、管理といってもそこまで仰々ぎょうぎょうしいものではなく、つまりは暗部組織ビザールは公務員となり、登録された者たちは、そこで働くというものだ》


ようは、暗部組織が公安警察になり、共和国の警察である監視員バックミンスターと共に、この国を守るようになるという話だった。


「メディスン……。こいつはどうなってんだ?」


ブレイクが静かに言った。


だが、メディスンは黙ったままだ。


何も答えずに難しい顔をしているだけだ。


「なんとか言えよ。ビザールが暗部じゃなくなることでもベクターのことでもなんでもいいからお前が知っていることを話せ」


口が悪いせいか高圧的に聞こえるが、ブレイクに攻撃的な気持ちはなかった。


それは、傍にいたジャガーとリーディンにもわかった。


「私が知っていることは――」


メディスンは、ベクターのホログラムを見ながら答える。


生物血清バイオロジカルを創ったのはベクターさんだということだけだ」


ようやく口を開いたメディスン。


ベクターはまだ喋り続けていたが、彼はそのまま言葉を続けた。

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