#265

突如現れたストリング帝国の軍の航空機であるトレモロ·ビグスビーに、その場にいた者すべてが目を向けていた。


さらに、そのオスプレイから一人の男が飛び出してくる。


かなりの高さから飛び降りて来たというのに、その男はまるで何事もなかったかのようにその場に立っていた。


オールバックの髪に手をやり、首に巻いた黒いスカーフの位置を直す。


深い青色の軍服は、その男が帝国軍人である証拠だが、その姿を見たライティングは両目を見開いていた。


「ノ、ノピア将軍ッ!?」


「なに!? この男がノピア·ラシックかッ!?」


ライティングが男の名を叫ぶと、トランスクライブも声を張り上げた。


そして、男の名を聞いたこの場にいる者全員が震え始める。


あれがノピア·ラシック。


アン·テネシーグレッチと共に世界を救ったヴィンテージか。


驚きの声があがる中で、ミックスだけがキョトンとほうけていた。


彼もヴィンテージやノピアのことは知っていたが、他の者とは違って大して興味がなさそうだ。


「全く、ジャズ中尉とライティングに任せると言ったくせに、将軍は何を考えているんだ!」


上空を飛んでいるトレモロ·ビグスビーには、ノピアの部下であるスピー·エドワーズ大尉がいた。


彼はブツブツと文句を言いながらも、ノピアの破天荒なはてんこう行動を心配している。


いくらノピアの名を永遠なる破滅エターナル ルーインの脱走者たちが知っているとしても、この場を血を流さずに収めることなどできるのか。


最悪、ノピアの出現によって彼らを刺激し、一万の賊軍と戦うことになりかねない。


「大体賊軍の前に姿を現して何がしたいんだ、将軍はッ!?」


一人上空で喚くスピーの心配をよそに――。


ノピアは静かながらよく通る声をはっする。


「聞け、永遠なる破滅エターナル ルーインの脱走者たちよ。お前たちの声はこのノピア·ラシックがすべて受け入れてやる」


その言葉に、脱走者たちも帝国兵たちも言葉を失い。


さらにはライティングまでも立ち尽くしてしまっていた。


しかし、ミックスだけは安堵あんどの表情を浮かべている。


だまされるなみんなッ! こいつはこうやってオレたち丸め込むつもりだッ!」


ノピアの言葉に否定する者がいた。


永遠なる破滅エターナル ルーインの脱走軍たちのリーダーであるトランスクライブだ。


ノピアは叫ぶように反論する彼を見て、その目の前へと立つ。


「お前がこの者たちの代表だな。まずは名を名乗れ」


「ト、トランスクライブ……だ」


トランスクライブは震えていた。


それは、かつてこれほどまでに存在感を持った人間と向き合ったことがなかったからだった。


こちらを威圧しようとしているわけでもないのに、ただノピアに見つめられるだけで消えていってしまいそうなる。


「ならばトランスクライブ、答えてみろ。私の言葉のどこにお前たちを騙そうとしているかを」


「オ、オレたちは永遠なる破滅エターナル ルーインにいたというだけでどこへ行ってもテロリスト扱いだ! 今や世界はバイオニクス共和国で回っている。その国ににらまれているオレたちを、共和国の言いなりになっている帝国のお前に引き受けられるもんかッ!」


トランスクライブは必死に己をふるい立たせていた。


目の前にいるのはまぎれもなく伝説の救世主であり、自分などこの男と比べたら虫とさほど変わらないことはわかっている。


だが、それでも退いてはいけない。


この男に圧倒されて言うことを聞いてしまったら仲間を守れなくなる。


その気持ちだけが今のトランスクライブを突き動かす。


「お前たちの求めるのは――」


ノピアは食って掛かってきたトランスクライブに、いや脱走者たち全員に向かって話を始めた。


「ただ目に入った食い物をうばって生き延びることではなく、誰からも後ろ指をさされずに安心できる暮らしを手に入れることではないのか?」


ノピアの言葉に誰もが内心でうなづいていた。


それは反抗的なトランスクライブもだった。


だが、それでも誰もその想いを口はしない。


しかし、ノピアは構わずに言葉を続ける。


「お前たちの求めることは、このノピア·ラッシクと同じだ。それはそのまま世界の求めることに繋がる」


そして、今まで静かに言葉を繋いでいたノピアが突然その声を張り上げる。


「脱走軍の代表トランスクライブよッ! ここにいる永遠なる破滅エターナル ルーインから抜け出した者たちをすべてを、この私の民とするぞッ!」


いきなり大声を出したこともあったのだろうが。


ノピアをその声を聞いたほとんど者が腰を抜かして地面に倒れていた。

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