#266

「な、ななな何を言ってるんですかッ!? ノピア将軍ッ!!」


ノピアの言葉を聞いたスピーは上空から叫んだ。


だが地上にいる者たちは、彼のことなど一切気にせずにノピアから目を離させずにいた。


その様子を見てスピーは思う。


(将軍が言っていた血を流さずにこの場を収める方法はというのは、こういうことだったんだな。だが、今の時期はダメだ。帝国はただでさえ派閥争いで緊張状態なんだ! そのうえ共和国は永遠なる破滅エターナル ルーインにこないだ襲われたばかりなんだぞ!? ここで何の罰も与えずに彼らを受け入れたら……いくらノピア将軍がヴィンテージだといっても世界中の国から敵に見られる!)


スピーは世界情勢を考えたうえで、トランスクライブら永遠なる破滅エターナル ルーインの脱走者たちをストリング帝国へ受け入れることに危機感を覚えていた。


それは、自国のローズ·テネシーグレッチ派の者やバイオニクス共和国だけでなく、おそらく永遠なる破滅エターナル ルーインを憎むすべての人間に、反感を買う行為だったからだ。


しかし、彼の心配が別の方向へとシフトしていようが、ノピアは脱走者たちへ言葉を続ける。


「お前たちが互いに思い合う気持ちは、私が認めたライティングにもおとることのない素晴らしいものだ! だが、住むべき土地がなければその身も心が休まることはないだろう。それがお前たちのことを、自分たちが最も嫌っているはずの略奪者へと変えるのだ!。その世界に必要な精神を、その高潔こうけつな心を、そんなくだらないできることで擦り減らす必要などない! お前たちが持つそのけがれなきたましいは、この世界に必ずなくてはならないものなのだ!」


トランスクライブは震えが止まらなかった。


だが先ほどは違い、それは歓喜かんきによるものだった。


生まれて初めて仲間以外の人間から認められた。


いや、物心ついてからずっと永遠なる破滅エターナル ルーインで奴隷のような扱いを受けてきた彼にとって、今のノピアは生まれて初めて自分を褒めてくれた大人の男だった。


それもライティングだけではなく、仲間たち全員をこの男は受け入れるつもりなのだ。


ノピアから真摯しんしさを感じたトランスクライブには、もう彼に食って掛かる必要はなかった。


ただ涙を流しながら、その喜びに身を震わせて口を開く。


「ノピア·ラシックッ! オレたちにはがくがない。字も書けないし読めない。でも、それでも何が信じられるかは感覚でわかる!」


トランスクライブの言葉に、すべての脱走者たちが顔を上げる。


自分たちの代表が代弁してくれていると。


「ノピア·ラシックッ! あんたは必ず後悔する! オレたちのような人間を受け入れたことで生まれるひずみに……。絶対……絶対にだッ!」


「後悔などあり得んッ!」


「戦う以外に何もできないオレたちなんだぞ! 皆がライティングような人間ではないんだぞ! それでも……それでもあんたは……オレたち受け入れるのかッ!?」


「受け入れるッ! お前たち全員がこの世界に必要な人間だッ!」


ノピアがそういうと、脱走者たちも帝国兵たちも歓声を上げた。


それはまるで大地震のように地面を揺らし、大気までもゆがめてしまいそうな勢いだった。


その大歓声の中、トランスクライブが泣きながら仲間たちへ号令をかける。


「みんな聞けぇぇぇッ! これからオレたちは新しい指導者……ノピア·ラッシクの民だッ! たとえオレたちが全員死んだとしても、このつながりだけは絶対に切れないぞぉぉぉッ!」


この日から――。


総勢一万人を自分の庇護下ひごかへと入れたノピアは、彼らを使って世界中の帰るところのない者を受け入れる組織を結成した。


「な、なんかスゴいとこに居合わせちゃったみたいだなぁ……。でも、よかった……本当によかったよぉ……」


その光景を見ていたミックスも、さすがに驚きを隠せず、すべてが上手くいったことを喜んでいた。

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