#249

――朝の会議終了後。


スピリッツは、早速ミックスの出した提案を実行させていた。


帝国兵たちに指示を出し、城塞付近にある街や村から食料を調達させているところだ。


「本当にこんな作戦で上手くいくのか?」


「ボクは良い案だと思うよ。ミックスが言っていることは奇策きさくというよりも至極しごく真っ当なことだからね」


不満そうなジャズへライティングは微笑みながら返した。


ミックスがスピリッツに進言した作戦は、この城塞を襲ってくる者たちに美味しい料理を食べさせてやろうというものだった。


「みんなお腹が減ってるから襲ってくるわけでしょ? だったら分け与えればいいんですよ」


「バカッ! そんな簡単にいくわけないだろうッ!? ここは戦場でもう戦いは始まっているんだぞ!」


「でもさ、外にいる人たちは軍人じゃないでしょ? それに永遠なる破滅エターナル ルーインから逃げてきたんだから、安心してご飯が食べられる場所がほしいだけだと思うんだけどなぁ」


会議中にジャズはミックスの意見に反対しようとした。


バイオニクス共和国で平和な暮らしを享受きょうじゅし、生まれてから一度も戦場の経験のない彼の言っていることに説得力を感じなかったのだろう。


だが、この城塞の総指揮官であるスピリッツは、ミックスの案を受け入れたのだ。


ミックスは城塞に運び込まれた食材をながめながら、一人うなっている。


しかし、それでも彼は満面の笑みだ。


その様子を見ていたジャズは、ミックスがただ料理を作りたいだけではないかと不安に思っていた。


「よし、決めた! やっぱ大人数なら鍋料理だ! 砂漠さばくの夜は冷えるしちょうどいいでしょう!」


どうやらこの大量の食材を使って、何を作るかを考えていたようだ。


それからミックスは、初対面である帝国兵たちを分担して、一万以上の人間がお腹いっぱいなる鍋料理を作り始めていた。


食材を洗う係からそれを包丁で切る係と、細かく指示を出していく。


「別に高級料理のフルコースを作ろってわけじゃないんだ! 結構アバウトでいいよ。ただし、味付けはしっかりやるけどね!」


ジャズは、城塞にある庭で一斉に料理を作っている帝国兵に違和感を覚えた。


ストリング帝国には自動調理器があるため、自分で料理をしようとする人間などいないのだ。


しかも、それを指揮しているのは共和国の高校生ミックス。


ここは本当に自分がよく知る戦場なのかと、開いた口がふさがらなくなっている。


「ジャズ中尉、後どのくらいで完成する? 見張りの報告によれば脱走者たちのほうに動きはないようだが」


「スピリッツ少佐ッ!? そ、その……ミックスの奴に訊いてみないと何とも言えませんが……」


「そうか、ならばジャズ中尉。しばらく外の指揮は任せる。どれ、わしもミックス君を手伝うことにするか」


「えぇッ!? しょ、少佐ッ!?」


「ボクも手伝います」


「ライティングまでッ!?」


そして、スピリッツとライティングも帝国兵とミックスの交じって鍋料理作りに参加した。


残されたジャズは、そんな二人に呆れながらも自分の仕事をしようとその場を後にする。


その後についていくニコは、その内心で料理が下手なジャズが参加しなくてよかったと、彼女が以前作った料理を思い出しながら小さく鳴いた。


去っていくジャズの背中には、たかだが料理をしているだけだというのに、まるで祭りのようにさわいでいる帝国兵たちの声が聞こえていた。

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