#247

連れられてきた部屋は大広間で、いかにもお偉いさんが会議をしそうなところだった。


大きな円卓にはすでにこの城塞の総指揮官であるスピリッツと、メカニカルな車椅子に乗ったライティングの姿が見える。


「申し訳ありません。少し遅れました」


「まだ五分前だ。遅れてなどいないよ、ジャズ中尉」


頭を下げるジャズに、スピリッツがそう声をかけた。


それを見たミックスは、ジャズが送ってくれた電子メールの内容を思い出す。


それは、昨夜に彼女が後で話すと言っていたことで(結局話し忘れていた)、今目の前にいる好青年ライティングと、ミックスがトランプカードのと覚えているリーディンとの関係。


さらには、白髪混じりの将校――スピリッツ·スタインバーグのストリング帝国での立ち位置などだ。


それによればスピリッツ少佐は、ジャズの上司であるノピア·ラシックの穏健派おんけんはと対立しているローズ·テネシーグレッチの強硬きょうこう派にぞくしているはず。


だが、この和やかな雰囲気はなんなのだろう。


対立しているグループ同士というよりは、むしろ仕事仲間の先輩と後輩のようだ。


(つまりタカ派とハト派だから仲が悪いってことなんだよね? でも、スピリッツさんとジャズを見ると、とてもそんな風には見えないなぁ)


ミックスはメールで知った内容との齟齬そごに違和感を覚えていた。


彼の顔にはそのことが表れていたのだろう。


ライティングがそんなミックスのことを見てクスクスと笑っている。


「では、ジャズ中尉とミックス君も来たことだし、少し早いが会議を始めようか」


スピリッツがそういうと、ジャズの傍にいたニコが鳴いた。


それは、自分もいるよと主張しているような力強い鳴き声だった。


スピリッツはそんな電気羊を見ると、申し訳なさそうに笑った。


「そうだな、君のことを忘れていたよ。すまない」


「スピリッツ少佐!? そんな、謝らないでください! ニコったら、どうしてそんな大きく鳴くの!?」


ジャズは慌ててスピリッツに声をかけると、ニコのことをしかるようになだめた。


たしなめられたニコはその小さな体をちぢこらせ、スピリッツに近づいて頭を下げる。


スピリッツはそんな申し訳なさそうにしている電気羊の頭を優しくでた。


「全く、怖いご主人様だな。君もなにかと苦労が多いだろう」


スピリッツにそう言われたニコは嬉しそうに鳴き返すと、ミックスとライティングが笑い出す。


そんな空気の中で、ジャズは顔を真っ赤にしていた。


「スピリッツ少佐! からかわないでくださいッ!」


「そう怒鳴らんでくれ。そんな怖い顔されたら、わしもこの子と同じように委縮いしゅくしてしまうよ」


「少佐ッ!」


スピリッツの態度に、ジャズの顔はますます赤くなった。まるで沸かしたポットのように湯気まで出てきそうだ。


「それじゃ、ジャズ中尉の緊張も解けたところで、そろそろ朝の会議を始めましょう」


「なッ!? ライティングまでッ!? 二人とも戯れが過ぎますよ!」


そんなジャズの様子を見ていたミックスとニコは、彼女のここでの生活へと不安が消えていた。


最初にジャズを見たときは、酷いやつれ方をしていたので心配していたが。


力み過ぎるところがある彼女を気にか掛ける人間がちゃんといたのだ。


もちろんここは戦場なのて苦労を多いだろう


だがこの光景を見ると、きっと三人で力を合わせているに違いない。


そう思い、ミックスとニコは嬉しそうに笑う。


「あんたもなに笑ってんのよッ!」


「ちょっとなんで俺がッ!? ギャァァァッ!!」


するとミックスは、真っ赤な顔をしたジャズに、いつも喰らっている頭突きをお見舞いされてしまう。


そして、そんな二人を見たニコは、さらに嬉しそうに鳴くのだった。

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