#246

次の日の朝――。


ミックスは固いベットから体を起こし、シャワーを浴びていた。


そして、歯をみがきながら部屋にあった洗面所の鏡に映る自分の顔を見る。


「たった一日でずいぶん疲れた顔になっているな……。きっとあの携帯食糧レーションのせいだ……」


ミックスの頬はこけてしまっていた。


それはおそらく、慣れない航空機で運ばれ、無理やりよくわからない城塞に連れてこられたせいだと思われるのだが。


ミックスからすると、昨日の夕食として渡された携帯食糧レーションのせいと思っているようだ。


余程味が気に入らなかったのだろう。


携帯食糧レーションのことを思い出すと、まるで気に入らない人間に口を出されたときのような苦い顔になっていた。


ミックスは、白髪頭でまるでわらのように細い身体の老兵――スピリッツ·スタインバーグ少佐のことを思い出す。


ジャズの話では、彼がこの城塞で一番偉い人物だと言っていた。


ならスピリッツに頼めば、こんな酷い食事も改善かいぜんできるかもしれない。


「あの人もそうだし、ライティングも話がわかりそうだったし。うん、そうだよ。美味しいものを食べられる環境を嫌がる人なんていないもんね」


いくらあのクソ不味いブロック状の食べ物で一食分の栄養が取れるといえ、毎日あんなものを食べていたらやつれてしまうのは明白めいはくだ。


人はやはり食事を楽しむものだと、ミックスは鏡に映る自分へ言い聞かせる。


「こんな食べないと死んじゃう不便ふべんな身体になった理由は、みんなで美味しいものを食べるためだって決まっているんだからッ!」


やつれていた顔に生気が戻り、ミックスがいつも着ている学校指定の作業ジャケットに袖を通していると――。


「おーい、起きてるか?」


コンコンとノックと音と共に、ジャズの声が聞こえる。


その後に、ニコの鳴き声も聞こえてくる。


どうやら彼女たちはミックスを起しに来てくれたようだ。


ミックスは起きていると返事をすると慌てて部屋を出ていく。


互いにおはようと挨拶を交わすとジャズが言う。


「これから朝の集まりがある。あんたにも参加してもらうぞ」


現在の時間は午前六時半。


まだまだ人が活動し始めるのは早いが、毎朝この時間には会議をするようだ。


何故自分なんかが軍の会議に参加しなければいけないのか。


そう思ったミックスがジャズに訊くと、なんでもスピリッツやライティングが是非ぜひとも彼に参加してもらいたいと言っているそうだ。


「なんでだろ? 俺みたいな素人じゃ役に立つようなことは言えなそうだけどなぁ」


「……全部ノピア将軍のせいだ」


「うん? なにか言った?」


「なんでもない……さっさと行くぞ」


そして、ミックスは昨夜さくやと同じように、ジャズの後を追って城塞の廊下ろうかを歩くのだった。

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