#234
――
マシ―ナリーウイルスの適合者の少年――ミックスは、自宅の
彼の傍には、豊かな毛を持つ電気仕掛けの仔羊ニコもいる。
「今日は一手間どころから前の日から仕込んでいるから、いつものより美味しいぞ、ニコ」
ミックスに続いて、テーブルに水とコップ、さらにサラダを運んでいたニコが嬉しそうに鳴き返す。
前日から仕込んでいたビーフシチューを、兄と姉から教えてもらった特製のデミグラスソースを使って作った一品に、ミックスもニコも今から食べるのを楽しみにしていた。
とてもこないだまでハザードクラス――
「いやはや、相変わらずろくなことがないけど。こうやって美味しいご飯を食べられることは幸せだな~」
ミックスは今まで病院への入院や思いがけない欠席が続いていたせいで、すべての休日を担当教師であるアミノの補習を受けなければいけない状況だった。
進級するのに出席日数が足りない彼にアミノが出した提案だったが、せっかくの休みに学校へ行かねばならないのは、遊びたい盛りの高校生とっては地獄だろう。
今日も日曜日だというのに、学校の
普通ならこれから休日がないことに絶望しようものだが、ミックスは美味しい料理を作り、それを友人らと食べられれば笑顔を取り戻せるような少年だった。
「さあ、いただきますして食べようか」
すべて料理をテーブルへと運び、ミックスがニコへそういうと彼のエレクトロンフォンが鳴った。
「これからご飯だってのに、一体誰だ?」
ブツブツ言いながら電話に出るミックス。
先に食べればいいものの、ニコも
電話に相手は同級生でクラスメイトのジャガー·スクワイアだった。
《よう、ミックス。今大丈夫か?》
「これからニコとご飯だから、長くなるならかけ直してほしいけど。それとも今すぐのほうがいい?」
《そいつは悪かったな。でも、ちょ~っと急ぎの話なんだわ》
「まあ、ジャガーにはいろいろと感謝してるから別にいいけど、なるべく手短にお願い」
《そうだな~手短といわれると……。うん、今からお前のとこに帝国から迎えが来るから、詳しいことは来た奴に聞いてくれ》
「なッ!? またそのパターンかッ!?」
《それじゃあな。流れ弾に当たって死ぬなよ~》
「ちょっとなんだよその捨て台詞は!? おっかないこと言って今度は何が起きるんだよッ!?」
喚くミックスだったが、無情にも電話は切られる。
不安に駆られながらニコを見ると、彼を見た電気羊は事情をそれとなく理解したようだ。
その豊かな毛を震わせながらビクビクと心配そうにしている。
「ニコ、とりあえず……ご飯にしよう。いやなに、人生なんてこんなもんだよ。それに大抵のことは美味しい料理を食べれば忘れられるさ」
そうなのだろうかと、さらに不安になったニコが、弱々しく鳴き返した。
「……あれが噂の適合者ですね。フムフム、聞いていた通り頭悪そう」
そんなミックスとニコは、まさか外から誰かに見られているとは考えてもみなかった。
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