#226

ロウルを攻め立てていたウェディングに向かって処女ヴァージンが突進。


時速五百キロでね飛ばされた彼女だったが、すぐに態勢を整えて再び向かって行こうとしたが――。


「真っ直ぐだけじゃ、前を見ているだけじゃ、先へ進めねぇよ」


側面から現れたロウルに腕を掴まれてしまう。


そして、その腕が無理やりに引き千切られた。


肉が裂ける音と共に、ウェディングの骨格に結合されたダイヤが砕ける破壊音が鳴る。


「があぁぁぁッ!」


ロウルは悲鳴をあげるウェディングのもう一本の腕も引き千切り、彼女から取った二本の腕――手の甲に生えたダイヤの剣をそのまま突き刺す。


運動場の地面に串刺しにされたウェディングだったが、まだ動く足を使い、ロウルのことを蹴り払った。


後退したロウルは、次第に再生していくウェディングの身体を見て両目を見開く。


「こうやって実際に見るのは初めてだが、恐ろしいもんだな」


引き千切られた部分から両腕が表れる。


まずは骨格。


それから三角筋、上腕二頭筋、橈側とうそく手根しゅこん屈筋くっきんから順に泡立って治っていき、手が生える。


その赤い繊維せんいから次に皮膚がおおっていき、ウェディングの両腕は完全に再生する。


さすがに破れた服は復元できず、肩の袖はないままで腹部にも穴が空いている状態だ。


「頭や心臓でもつぶせばお前は死ぬのか? いや、そんなことねぇな。俺の知っている知識じゃ、超復元グレート·リストレーションはたとえ細切れになっても肉片の一つさえあれば再生するはずだ」


「その通りです。だからあなたに私は殺せませんよ。どんな傷だってすぐに治っちゃうんだから」


「不死身と無敵は同じじゃない。つまりはやり方はあるってことだ」


ロウルの言葉にウェディングは表情をゆがめた。


ハザードクラス同士スピードもパワーもほぼ互角ごかく


だが、ロウルにはまだまだ余裕がある。


おそらくこれまでの戦闘経験の中に不死身に近い相手がいたのだろう。


止めを刺さなくても敵を倒すことをできるのだと、この長髪パーマの男はウェディングに思わせた。


「どうした? 動揺どうようが顔に出てるぞ」


ロウルがそういった瞬間、ウェディングの側面から処女ヴァージンが突進してきていた。


ウェディングは両手の剣でこれをふせぐと、背後から頭に向かって蹴りを入れられ吹き飛ぶ。


運動場で大の字に倒れた彼女の身体を、処女ヴァージンが押し潰す。


そこから、さらにロウルがウェディングの両足を踏み潰した。


「があぁぁぁッ!」


戦い始めてから二度目の悲鳴。


クリーンやブロードたちのときはここまでやらなかったロウルだったが、相手がハザードクラスとなると容赦がなかった。


油断すれば自分がやられる可能性があることを理解しているのだ。


「無駄だと思うが、一応は訊いておこうか。適合者の少年どこだ?」


ウェディングは両足を潰され、処女ヴァージンに押さえつけられた状態から動けなかったが、その眼光だけは変わらずに見下ろしているロウルをにらみつけていた。


「言いたくなければ別にいい。おそらくさっきぶちのめしてやったからどっかの病院で寝ているんだろう。一つ一つ当たっていけば――」


「行かせないッ!」


ウェディングはまだ両足が完全に再生していない状態で身体を起こし、上から押さえつけていた処女ヴァージンをロウルへと投げ飛ばした。


そしてまだ再生中の泡立った両足で立ち上がり、己の血を振り撒きながら彼女は叫ぶ。


「先輩は殺させない……。私は絶対にあの人を守るッ!」

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