#222

しかし、それでもクリーンは前に出る。


ゆっくりとだが、一歩一歩確実にロウルへと近づいていく。


普段のあの脱力少女ぶりはどこへやら――。


今の彼女はその身体から放つ剣気と、ロウルへの恐怖を押し殺すそうとする気持ちが相まって、最初に対峙たいじしたときよりも鬼気迫るものがあった。


「ロウルのおじ様がミックスさんにこだわるのは何故です?」


訊ねられたロウルは答えない。


それよりもまだ戦意を失わないクリーンを見て、悲しそうな表情を浮かべていた。


だが、それでもクリーンは言葉を続ける。


「その身体にゆうしている力――合成種キメラと何か関係あるのですか?」


「戦う理由を語るのは野暮やぼってもんだぜ、クリーン。それに、どうせ何をいっても“お前ら”は戦いを止めないだろう」


クリーンはロウルの言葉を聞くと背後を振り返った。


そこには、先ほど上空へと打ち上げられ、そのまま地面に叩きつけられた三人が立ち上がろうとしている姿だった。


「その通りよ……。わかってるじゃない……」


――ヘルキャット。


「たとえどんな理由があっても……ミックスくんを殺させたりなんかしません……」


――アリア。


「帝国軍人を舐めるなよ……ロウル·リンギングッ!」


――ブロード。


望む望まざるは抜きにして、あのマシ―ナリーウイルスの適合者である少年には恩がある。


これが上から指示された任務とはいえ、今この状況でそのときの恩を返さねばいつ返すのか。


三人の軍人は力の入らない足をふるい立たせ、それぞれの武器を持って身構える。


「皆さん……」


クリーンは、そんな三人を見て両目を見開くと笑みを浮かべた。


そうだ。


自分は一人で戦っているのではない。


それに自分も三人と同じ気持ちだ。


マシ―ナリーウイルスの適合者――ミックスの名はクリーンにとっても意味がある。


彼がいなければ、きっと今でも兄ブレイクとの関係はギクシャクしていたままだった。


彼は何の利益もないというのに、バイオニクス共和国で最強といわれた兄を止めようと、その命を懸けてくれたのだ。


たとえ勝てないまでも、同じく恩人であるロウルを諦めさせるくらいの戦いをしなければ――。


と思いながら、クリーンは前を向いた。


「ロウルおじ様……参りますッ!」


クリーンは踏み込みと同時に轟音が鳴り響く。


小雪リトル スノー小鉄リトル スティール――それぞれの白と黒の刃がロウルを斬り裂こうと襲い掛かる。


それと同時に今度は電磁波が彼の背後から放たれた。


いつの間にロウルの後ろに回ったヘルキャットとアリアがインストガン発射したのだ。


しかし、それ程度ではロウルは止まらない。


目の間にいるクリーンを押しのけ、再び四人全員をぶちのめそうとしたが――。


「ディストーションドライブッ!」


高出力のエネルギーが撃たれた。


ブロードがヘルキャットとアリアに続き、装着した効果装置エフェクトで得た機械化したてのひらからビームを放ったのだ。


電磁波に光線と立て続けに背中に浴びたロウルは、さすがにダメージがあった。


それでも彼がひるんだのは一瞬だ。


だが、クリーンはそのすきを見逃さず、二本の刀を容赦なく振るう。


白と黒のオーラがまるで花びらのように舞い、ロウルへと降り注ぐ。


「ベルサウンド流、モード小雪スノー&小鉄スティール。乱れ雪鉄風せつてっぷうッ!」


そして刀が爆発した。


たとえではなく舞い上がったオーラと一体化した。


斬撃が十字となりロウルの胴体を突き抜け、その眩い光が周囲へと散っていく。


彼女の母であるクリアが生み出した精霊を武器とした二刀の剣術。


その技の威力は、たとえあのヴィンテージの筆頭ひっとうであるアン·テネシーグレッチすら倒せるだろうと言われていた。


しかし、クリーンがこれを他の者に使用したのはこれが初めてだった。


そのあまりの技の威力ため、彼女は二刀流を封印していたといっていい。


手応えはあった。


これで立てるはずがないと、クリーンは吹き飛んでいくロウルを眺めていると――。


「本当に強くなった……。もし、お前が本気で俺を殺す気だったらやられていたかもな……」


いつの間にか現れた処女ヴァージンに掴まり、こちらを見下ろしていたのだった。

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