#221

何が起こっているのだろう。


ロウルはマルチラックシステムに搭載とうさいされたダイナコンプの影響で、呪いの儘リメイン カースとしての力を妨害ぼうがいされているはずだというに。


今ブロードたちの目の前で電磁波をはじき返した。


「どういうことだッ!? まさかダイナコンプの故障かッ!?」


さすがのブロードも動揺どうようかくせず、皆に確認するかのように声をあらげた。


だが、機械に問題はない。


正常に起動している。


その証拠しょうこに、クリーンはたしかに小雪リトル スノー小鉄リトル スティールが、特殊な粒子と電波を感じ取っているという。


ならばどうしてロウルはまだ超常現象的な力を使えるのだ?


まさかロウルは、能力なしに素手で電磁波をはじき返せるような人間なのか?


狼狽うろたえるブロードたちにロウルは笑みを浮かべる。


「俺がただの能力者だったら、お前らにやられていたかもな」


その笑みはあざけりからくるものではない。


むしろ先ほどの彼の言葉通り、少ない時間でここまで対策を立てたブロードたちを称賛しょうさんする笑みが深くきざまれている。


「惜しかったと思うよ。実際にお前らは大したもんだ」


そして、ロウルはアスファルトを踏みつける。


すると、地面がその衝撃で割れ始め、後退していたブロードたちの足元を揺らした。


「俺は 呪いの儘リメイン カース でもあるが、それだけじゃねぇ。この身体には合成種キメラの細胞が混じってんだよ」


その瞬間――。


四人がほぼ同時に、下から突き上げられるような衝撃を受けた。


クリーンはなんとか刀でふせいだが、ブロード、ヘルキャット、アリアの三人はまるで打ち上げられた花火のように深夜の空へと舞っていく。


そして、そのまま三人は受け身も取れずに、アスファルトへと叩きつけられてしまった。


「皆さんッ!?」


「おい、よそ見している場合かよ」


「くッ!? おじ様ッ! 合成種キメラとは一体なんなのですかッ!?」


「うぅ……合成種キメラとは、アン·テネシーグレッチたちヴィンテージらが倒した暴走コンピューターの生み出した怪物だ」


叫ぶクリーンに答えたのは、倒れながらも顔を上げたブロードだった。


クリーンはブロードの言葉を聞いて思い出していた。


そう――。


かつてストリング帝国が世界中へ軍を派遣していた時代――。


その理由となった人の形した怪物のことを。


「知ってたのかブロード。まあ、お前の年齢なら当たり前か」


「その、おじ様は、あの合成種キメラの力もゆうしているということですか……?」


倒れているブロードに言葉をかけたロウルへ、クリーンは弱々しく訊ねた。


合成種キメラとは、先ほどブロードがいったように、暴走コンピューターが生み出した怪物である。


その造形は、個体によって片手だけ異様に長かったりなど違うが、主に人型。


自我もなくただ闇雲に人を食らっていた怪物が、アフタークロエ以前には世界中を覆い尽くしていた。


さらに恐ろしいのは、その合成種キメラの中にも人間と同じように知能ある者もいた。


自我のある合成種キメラは、それぞれ特殊能力を持ち、ある者は火を放ち、ある者は傷ついた身体を再生させたという。


「そういうことだ。だからダイナコンプじゃ俺をどうこうできないんだよ」


その怪物の細胞が自分に混じっているというロウル。


呪いの儘リメイン カースだけでなく合成種キメラの力まで持つ彼を前にし、クリーンは身の震えを止めることができなかった。

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