#206

その後――。


ファミリーレストランを出たミックスたちの後をつけるていくブロード。


ヘルキャットとアリアもそうだが、彼は以前に共和国へ来たときに街の主要しゅようルートは大よそ把握はあくしていた。


それもあり、少し距離きょりを取りながらも護衛ごえい対象たいしょうであるミックスたちと同じ速度で絶えず移動することができている。


しかも、ミリタリーファッションのような目立つ服装に身をつつみながらも、完璧に風景に溶けみ、誰かを見張っているような素振りは見せない。


もし、要人護衛の専門家が彼の尾行びこうを見たら、その技術の素晴らしさに脱帽だつぼうしたことだろう。


だが、仮に専門家がブロードの姿を見ても、その正体に気が付くことはない。


ストリング帝国軍で大佐たいさという立場にいながらも、入隊時から潜入せんにゅう任務と得意とした彼ならではといえる。


一定の間隔かんかくで追いかけているブロード。


そのとき、彼の通信デバイスがふるえた。


腕時計タイプの通信機だ。


相手の声は耳の穴に入れたワイヤレスイヤホンから聞こえ、腕時計の持ち主――デバイスに登録とうろくした者だけの声を拾うという帝国兵が昔から使用している通信機である。


《おーす、ブロード叔父おじさん》


ブロードのおいであるジャガー・スクワイアからだった。


ジャガーはやる気のない声で簡単な挨拶あいさつをすると、いきなりたずねる。


《叔父さんはどう思う?》


「……ロウル・リンギングのことか?」


《ちがうって、ミックスの奴が浮気するかしないかだよ》


ブロードは、くだないことをと思いつつも、自分も先ほど似たようなことを考えていたことに苦笑くしょうする。


そんな叔父のことなど気にせずに、ジャガーは話を続けた。


ミックスは大人しそうに見えてやるときはやる男だ。


しかも、今は三人のタイプの違う女の子にかこまれ、その内心ではウハウハだろう。


《上品さがウリの脱力系だいつりょくけい少女クリーン・ベルサウンド。女性らしい丁寧ていねい物腰ものごしでいながらも高身長女子のアリア·ブリッツ。テンプレながら一番奴のこのみであろうツンデレ乙女ヘルキャット·シェクター。オレはやっぱヘルキャット辺りがヤバいと思うんだよね。ほら、やっぱ姉貴あねきかぶるとこあるからさ》


「ジャガー……。お前、たしかハザードクラスを相手にする任務中だったと聞いたが……」


《うん? 平気だって、今は移動中だし》


「ずいぶん余裕よゆうだな。いや、お前はジャズと違っていつもそんな感じだったな」


《姉貴はいつもりきみ過ぎなんだよ。だから弟のオレは自然とこうなる》


「バランスというわけか? 双子なのに変な姉弟していだよ、お前らは」


笑みを浮かべながら返事をしたブロード。


彼は、ジャガーからあまりに神経質になると言われているように感じていた。


ブロードは昔からよく知っている。


この無気力な甥は、いつもそうやって他人に気をつかう奴なのだ。


しかし、その性格や態度からよく人に誤解され、損をする役回りが多いジャガーを、ブロードは少し心配している。


そして、彼は周囲を軽く見回しながら――。


「そっちにロウル・リンギングの情報は入っているか?」


《今のところ外から侵入しんにゅうした痕跡こんせきはないみたいだぜ》


「ならもう国内にいると考えたほうがいいな。しかし……わざわざあのロウル・リンギングが何故ミックスを狙っているんだ?」


《めずらしいな、叔父さん。あんたが任務に私情をはさむなんて》


「ああ……自分でもそう思う」


そこからブロードの表情がわずかに変わった。

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