#198

それから一心いっしん不乱ふらんに食べ始めるヘルキャットとアリア。


そのあまりのいきおいにミックスもニコもおどろいている。


「あ、あのさ、なにか大事な話があったんじゃなかったっけ?」


「ふご! ふごふごふごッ!」


「うん、食べ終わってからにしようか……」


口の中いっぱいに食べ物をめて話そうとするヘルキャットを見たミックスは、とりあえず話は後にしようと伝えた。


(そういえばジャズも作ったパスタの味にビックリしてたっけ? 帝国って料理作れる人がいないのかな?)


ミックスは内心でそう思いながら、ヘルキャットとアリアを見て、ねこまっしぐらというキャッチフレーズがあったことを思い出していた。


「とても美味おいしい食事をありがとうございました」


「ふん、まあまあうまかったわ」


照り焼きチキンを食べを終え――。


ペコリと礼儀れいご正しく頭を下げるアリアと、何故かツンとしているヘルキャット。


そんな二人の空いたコップに、ニコがミネラルウォーターをそそいでいる。


「それでどうしたのさ? まさか二人で旅行に来てホテルを予約よやくわすれてたとかじゃないよね?」


どうやらミックスは、二人が今夜まらせてほしいと家に来たものだと思っているようだった。


「なんで私たちが共和国なんかに旅行に来なきゃいけないのよッ!」


「まあまあヘルキャット、少し落ち着きましょう。ミックスくんは気づいていないみたいだし、まずは私たちがこの国に来た理由を話さなきゃ」


喧嘩けんかごしのヘルキャットをおさえ、アリアがミックスに話を始める。


それは、学校帰りにジャガーから聞かされたハザードクラス――ロウル·リンギングがミックスをねらっているという内容だった。


「つまり、私たちはミックスくんの護衛ごえいに来たんですよ」


「護衛って……。ジャガーの話じゃ帝国の軍人さんだって聞いてたけど?」


「だからその帝国軍人は私たちだっていってんでしょッ! どうして最初に気づかないのよッ!」


アリアの説明を聞いてもまだとポカンとしているミックスにヘルキャットが怒鳴どなった。


どうもミックスは、二人がストリング帝国の軍人だということをすっかり忘れていたようだ。


ありないことだと憤慨ふんがいしているヘルキャットをまた抑え、アリアは話を続ける。


バイオニクス共和国とストリング帝国に送られたロウルからの電子郵便ゆうびんのことで、共和国上層部と帝国のノピア·ラッシクの間で話し合いがおこなわれた。


その会議で、共和国側は警備けいびの強化――戦闘用ドローンであるナノクローンの数を増やし、帝国側はミックスに護衛をつけるという結果になったらしい。


「そこで私たちの部隊、ブロード大佐たいさのチームが選ばれたんですよ」


「ふん、ノピア将軍直々じきじきの命令だからって、大佐もしょうがなくって感じよ」


話を理解したミックスは、ブロードの名を聞いて笑みをかべた。


テーブルに前のめりになって二人にその顔を近づける。


「ブロード大佐、いやブロードさんも来てるのッ!?」


ヘルキャットは、そんな彼のうれしそうな態度たいどに顔をしかめた。


この少年は、どうして以前戦った相手と会えることをよろこんでいるのだろう。


自分たちに対する態度もそうだったが、その思考しこうが全く理解できない。


そんなミックスにアリアが返事をする。


「はい。ブロード大佐は私たちとミックスくん周辺を警護しています。何かあればすぐに連絡を寄こしてくるはずですよ」


「なんだよ、ブロードさんも一緒にご飯食べればよかったのに」


残念そうにいったミックスにヘルキャットが口をはさむ。


「大佐は任務中なのよッ! そりゃ、一緒に食事できればよかったけど……。ってゆーかあんたはどうしてそんな落ち着いているわけッ!?」


前のめりなっていたミックスを押しのけ、彼女も顔を近づける。


「ハザードクラスの、しかもあのロウル·リンギングなんだよッ!? いくらあんたが適合者てきごうしゃだからって、まともにやったら間違いなく殺されるわッ!」


「でもまあ、なるようにしかならないし……。まあ、人生なんてこんなもんだよ……ハハハ……」


「これから殺されるかもしれないってのに、笑ってんじゃないわよッ!」


エキサイトし出したヘルキャットに、ミックスはただかわいた笑み返すしかできなかった。


そして結局は、またまた止まらくなった彼女のことをアリアが抑えたのだった。

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