#184

その人物の名はラヴヘイト。


バイオニクス共和国がえらんだ、くろがねブレイク·ベルサウンドや舞う宝石ダンシング ダイヤモンドウェディングと同じくハザードクラスに数えられる男だ。


彼はその特殊とくしゅな能力から還元法リダクション メゾットの二つ名で呼ばれている。


「ラヴヘイト……還元法リダクション メゾットか。生物血清バイオロジカルはまたどうしてそんな大物を脱獄だつごくさせようとしているんだ?」


ジャガーがそうたずねると、エアラインはくび左右さゆうに振る。


どうやら彼もくわしいことは聞かされていないようだ。


「でも、大体のことはわかるんじゃないでしょうか? 彼がつかまっているということは、少なくとも共和国にとって味方みかたではないとういうことを」


「ラヴヘイトを生物血清バイオロジカルに入れようってのか? 監獄プレスリーに入れられていること自体が秘密ひみつにされている人物だぞ。そんなやつ素直すなおに人のいうことを聞くとは思えないがな」


「そうかもしれないですが、少なくとも刑務所に入れられているんですよ。共和国のことをにくんでいるとは考えられませんかね?」


エアラインの言葉にジャガーが表情を強張こわばらせると、きゅうにヴィクトリアが声を張り上げる。


「それよりもエアラインッ! どうして、どうしてなんだよッ!?」


彼女は声を張り上げたまま、エアラインの目の前に立った。


そして、これまで一緒に暗部あんぶ組織ビザールとしてはたらいてきたことを話し出す。


ヴィクトリアはエアラインとおない年というのもあったのだろう。


それに彼女は、あれだけ上司じょうしであるイーストウッドに忠誠ちゅうせいちかっていた彼が、まさか組織を裏切うらぎっていたことに、ショックをかくし切れないようだった。


だが、エアラインはヴィクトリアのいには答えず、別の言葉を返す。


「ヴィクトリア……あなたは暗部なんかにいてはいけない人間です」


「突然なにをいうんだよッ! それよりもどうしてアタイたちを裏切ったのッ!? 金や権力けんりょくになびくあなたじゃないっしょ……。それはアタイが一番よく知ってるよ!」


「あなたという人は……だから向いていないといっているんです」


それからエアラインはだまってしまった。


ヴィクトリアが何度も説得せっとくを――いや、何故彼が生物血清バイオロジカル参加さんかしたのかを聞こうとしたが、答えてはくれない。


「……あなたの会いたがっている人間があちらのチーム……ラヴヘイトを脱獄させているほうにいます」


すると、ヴィクトリアに何か思うところがあったのか。


エアラインは口を開き、今脱獄しているほうのチームに彼女が暗部に身を落とした原因げんいんとなった人物――ヴィクトリアのおとうとであるゼンオンがいることを伝えた。


いそいだほうがいい。もうすぐむかえが来る時間です。まあ、あなたがのぞ結果けっかられないと思いますが……」


「ゼンオンがここに……。エアライン、あなたのことはまだゆるしてないけど……ありがとッ!」


それを聞いたヴィクトリアは部屋を出ていった。


すでに看守かんしゅたちの血で水浸みずびたしになっていたゆかり上げながら、一心いっしん不乱ふらんけていく。


そんな彼女をながめていたリーディンがジャガーのほうを見る。


そのときの彼女は、行かせてよかったのかとでも言いたそうな顔をしていた。


ジャガーはお手上げとばかり片手を上げて首を振ると、ふたたびエアラインのほうを向く。


「さてと、お前には話してほしいことが山ほどあるんだ。ご同行どうごうねがおうか」


拳銃けんじゅうタイプ電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置――オフヴォーカ―を突き付けられながらも、エアラインは笑みを浮かべていた。

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