#170

研究施設に入れられたヴィクトリアと彼女のおとうとは、それから毎日人体実験の被検体ひけんたいとしての日々をおくった。


薬物やくぶつ投与とうよからのうからつま先までの全身に電気を流すなどの人道的じんどうてき処置しょちほどこされ続ける。


ヴィクトリアや彼女の弟は、それでもまだほかの子供たちよりも比較的ひかくてき良いほうだった。


担当研究者の判断はんだんによっては、脳を解体かいたい再構築さいこうちく、さらに一部を機械に変えるなど、被験者の人格じんかく破壊はかいする実験もおこなわれており、それにえらばれた多くの子供たちがそのまま帰らぬ人となり、死ぬことはなくても生きたまま自我じがうしな結果けっかになっている。


それは、この国でそだった未成年みせいねんしゃには当たり前のことだったが、ブレイクやクリーン、ベルサウンド兄妹きょうだいのような上層部じょうそうぶ庇護下ひごかあった者にはわからない地獄じごくの生活だった。


まだ奇跡人スーパーナチュラルと呼ばれる前から超常ちょうじょう現象げんしょう的なちから発揮はっきしていたクリア·ベルサウンドの子供たちであるブレイクもまた研究施設をたらいまわしにされる日々ではあったが、テストチルドレンであったヴィクトリアたちよりは、優遇ゆうぐうされていたと考えるべきだろう。


「ラムブリオンだけでなく、お前は上層部のお気に入りのようだからな」


メディスンの言葉に苛立いらだつブレイクだったが、だまったまま彼の言葉に耳をかたむける。


その後の研究で、ヴィクトリアには奇跡人スーパーナチュラルとしての適正てきせいはないと判断されたが、彼女には子供には理解りかいできるはずもない実験内容を把握はあくできたりと、別の使い道があると判断され、研究で助手じょしゅとしての道を辿たどることとなった。


「たい焼き女が助手? そんな風には見えなかったぞ」


「お前のように国内の模試もしでトップを取れるとまではいかないが、ああ見えて彼女は聡明そうめいだ。まあ、ああやってあかるく振舞ふるまうようになったのはここ最近のことだがな」


人は見かけによらない。


そう思っているブレイクをよそに、メディスンは言葉を続ける。


被験者から研究の助手としてはたらくようになったヴィクトリアだったが、彼女の弟はそのままだ。


だが、彼女はいつか弟の実験が終わり、普通ふつうに学校へ行けると信じていた。


そのために助手となってから出た給料きゅうりょうを少しずつめ、施設から出ようと考えていた。


弟を学校へ通わせて、自分はどこか人体実験をしない真っ当なところではたらこう。


姉弟二人でのつつましいながらにおだやかな生活。


いつしか、それがヴィクトリアの夢になっていた。


「しかしある日……。彼女のいた研究施設の所員しょいんはすべて殺された」


その理由は、実験により特殊とくしゅ能力をたヴィクトリアの弟が暴走ぼうそう


だが意識いしきはあったのか、殺されたのは所員のみでヴィクトリアや他の被験者たちは手を出されなかったそうだ。


現在げんざい共和国では人間を使った実験じっけん法律ほうりつ禁止きんしされている。


彼女がいた施設は、今は閉鎖へいさされているのはその事件があってのことだったのかはわからないが、その出来事があってからは、共和国内でも表立って人体実験をする研究者はいなくなったようだ。


「そして、仕事を無くした彼女を私がビザールにさそった」


「あん? いまいちつながらねぇぞ」


「まあ、最後まで聞け。ヴィクトリアが私のスカウトを受けたのは、彼女の弟が生物血清バイオロジカル参加さんかしたことを伝えたからだ」

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