#169

ヴィクトリアは、元々もともとはバイオニクス共和国とは別の国で生まれた。


彼女が物心がつくころにはすでに共和国にうつっており、母親とおとうと共に三人で暮らしていたようだ。


「さて、ここで質問をしよう。ヴィクトリアたちはどうやってこの永住権えいじゅうけんたと思う?」


「話が始まったばっかでもうクイズかよ」


「いいから答えろ」


メディスンの態度たいどにウンザリしたブレイクだったが、少し考えてみることにした。


自分やクリーンは、共和国上層部じょうそうぶせきを置くラムブリオン·グレイとの取引とりひきでこの国への居住きょじゅうゆるされたが、ほかの者はどうやったのだろうか。


ラムブリオンは、かつて世界をすくった英雄えいゆう――ヴィンテージの一人であるクリア·ベルサウンドの子供であった自分たちには利用価値かちがあるとして住まわせたが。


まさか他の国からの移住いじゅう希望者きぼうしゃすべてに、その価値があるとは思えない。


ならばどうやって永住権を得るのだろう。


ブレイクはみじかい時間で考えをまとめると、自分の予想よそうしたこたえを口にする。


「あくまで推測すいそくいきは出ねぇが、こうなんじゃないかとは思う」


まず第一に、素行そこう善良ぜんりょうであること。


そして第二に、共和国内で生計せいけいいとなむにりる資産しさんまたは技能ぎのうをあること。


「最後は、そいつが住むことによって共和国に利益りえきがあるとみとめられること。これら三つの条件じょうけんがそろっていれば永住権を得る資格しかくはありそうだが」


「さすがは学生の中でトップだっただけのことはあるな。とても高校生の意見いけんとは思えんよ」


茶化ちゃかしてんじゃねぇよ。それよりも答え合わせといこうぜ」


「そうだな。まずお前の考えは至極しごととうだ。もし私が国の法律ほうりつを決めるなら、今お前がいった内容ないようまわしていくだろう」


「そういうなら答えはちがうってことか。ならあのたい焼き女はどうやってこの国に住めたんだ?」


「それはな、取引だよ。まあ、お前とラムブリオンのとは違って、最悪さいあくの条件が付いてくるがな」


それからメディスンは、その最悪の条件について話し始めた。


まず、持たざる者が共和国に住むためには、国の発展はってん貢献こうけんしなければならない。


それは簡単かんたんいえば、人体実験の被験者ひけんしゃになれということだった。


共和国は、今から七年前に起きたアフタークロエと呼ばれる戦争で、ストリング帝国に勝利したことで得た科学力をさらに進化させるために、世界中から居住者をつのったそうだ。


その移住希望者の数はおそろしいほど多かった。


それもそのはずだ。


アフタークロエ以前の世界は文明ぶんめい社会が崩壊ほうかいしていたのだ。


荒廃こうはいした大地でえや病気、さらには野盗やとうおびえての生活だ。


誰だって治安ちあんが良く、経済的けいざいてきにも安定あんていしたところに住みたくもなるだろう。


共和国が移住希望者を募らなくなった頃には、すでに世界中にストリング帝国の持っていた科学技術は公開こうかい共有きょうゆうされ、多くの国がまずしさから救われた。


それは、世界中の国がバイオニクス共和国の属国ぞっこくという名の加盟国かめいこくになったからだった。


「だが、他の国は知らない。共和国が移住希望者たちに何をしたのかをな」


メディスンは顔をしかめて話を続ける。


共和国は移住希望者たちのすべてを虐殺ぎゃくさつし、未成年の者だけを生かした。


その理由は先に話した通り、人体実験の被験者にするためだ。


「じゃあ、ヴィクトリアあいつの母親も……」


「ああ、お前の考えている通りだよ。彼女の母親だけじゃない。共和国に住む者の多くがテストチルドレン出身しゅっしんだ」


テストチルドレンとは、共和国内にある研究所の被検体にえらばれた子共たちのことだ。


この国のおも住民じゅうみんは、ひとりらしの学生と、研究所へつとめる科学者かがくしゃたち。


ブレイクは、何故共和国にひとり暮らしの学生が多いかをこのときに知った。


自分の国もひどかったが、それでも国の決めた和から外れなければ人間あつかいされた。


だが、バイオニクス共和国は違う。


この国は人を人と思っていない最悪の国だ。


「クソッタレだな……。この国のことを知れば知るほどきらいになる……」


ブレイクがそうつぶやくと、メディスンは次に、母親を殺されたヴィクトリアのその後について話し出した。

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