#164

メディスンと向き合ったブレイクはいもうとのことを考える。


クリーンのほうには小鉄リトル スティール小雪リトル スノー――リトルたちを置いてきた。


さらに妹の友人には自分と同じハザードクラスにえらばれている舞う宝石ダンシングダイヤモンドことウェディングと、それなりに頭のまわりそうなストリング帝国の女兵士ジャズ·スクワイアがいる。


いくら上層部じょうそうぶとはいえ、奇跡人スーパーナチュラルとハザードクラス、ストリング帝国からの留学生りゅうがくせい相手なら慎重しんちょうにことをはこぶはずだ。


(それに……ムカつくが、あのヤロウもいるからな。ラムブリオンでも迂闊うかつに手を出せねぇはずだ)


それに加えてマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃであるミックスがいる。


妹を他人たにんまかすのは気に入らないが、彼らがいればまずクリーンはまもってもらえるだろう。


「その前に、ブラッドとエヌエーとはどういう関係なんだ? まあ、お節介せっかいなあいつらのことだから夜の街ででフラフラしていたところを無理やり連れて来られたとか、そんなところだろうがな」


「ああ、今テメェが言ったとおりだよ」


ブレイクは両腕を組むと無愛想むあいそに答えた。


そんなブレイクに、ソファーにすわらないのかとたずねたメディスンだったが、彼はだまったまま表情を強張こわばらせているだけだった。


やれやれといった様子のメディスンはソファーにふかこしを掛ける。


メディスンが何も言わなくなると、部屋には誰もいなくなってしまったかのように静寂せいじゃくおとずれた。


ここがタワーマンションの高層階こうそうかいだけあって外からは鳥の声すらしない。


その中でにらむように見続けてくるブレイクに、メディスンはクスッと笑みをかべて返す。


そして、ブレイクを見上げるようにソファーから身を乗り出した。


「私が追手おってか何かだと勘違かんちがいしているようだな」


「そうじゃなきゃなんなんだよ。まさかその服装なりで、共和国の教育委員会だとでもいうつもりかよ」


「それっぽい格好かっこうをしているだろう? ネクタイも着用ちゃくようしているしな」


「ヤクザにしか見えねぇよ。それか神経質しんけいしつそうなころし屋だ」


「殺し屋か、まあ、たようなものか」


メディスンはそういうとソファーから立ち上がった。


ブレイクは反射的はんしゃてき身構みがまえたが、彼から殺気さっきがまるでないことに気が付く。


「今日はスカウトに来たんだ」


「あん? スカウトだと?」


それからメディスンは自分の素性すじょうを話し始めた。


まず、ここの家主やぬしであるブラッドとエヌエー夫婦ふうふとはおさなころからの付き合いであること。


そして、自分は彼らのような公務員こうむいん――公安職こうあんしょくいている人間であること。


だが、ブレイクはメディスンの言葉をうたがう。


それは、彼はどう見ても共和国きょうわこく治安ちあん維持いじする組織そしき監視員バックミンスターのような治安、安全に関係する職にある者に見えないからだった。


それに、先ほど自分でいっていた殺し屋に似たようなものという言葉にも引っかか引っ掛かっていた。


監視員バックミンスターはどう考えても殺し屋とは似ても似つかない。


ブレイクは引っ掛かったことをいてみる。


「私が公務員であることにうそはない。ただ、あいつらよりも日陰者ひかげものというだけさ」


「そんな遠回とおまわしにいわれてもわからねぇな。もっとハッキリといえよ」


わかいな。ラムブリオンの犬だったくせに“待て”は苦手にがてか?」


「オレはくさりつながれたい犬じゃねぇぞ。それと、ラムブリオンの名が出たってことは、やっぱテメェは――」


「落ち着け。さっきいっただろう。私はお前をスカウトに来たと」


「もうラムブリオンあいつのとこにもどる気はねぇ」


ちがう、ラムブリオンのところではない。お前に入ってもらいたいところは、私が所属しょぞくする組織ビザールだ」

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