#163

まどから外をながめながら――。


自分は理屈りくつっぽくなんかないはずだと思いなおしたブレイクは、メディスンのことを考えていた。


(あいつ……仲間全員と自分の義理の父親おやじの死にかかわっていたのか……。そりゃ組織そしきじゃ裏切うらぎり者あつかいされてもしょうがねぇ……)


まるで故郷こきょうほろぼした自分のようだ。


ブレイクはこころの中でそうつぶやくと、メディスンとはじめて会ったときのことを思い出していた。


それは、彼が戦災せんさい孤児こじたちがかよう学校の生徒せいと――ミックスと戦ってから数日後のことだった。


――ミックスとの戦いの後。


ブレイクは住んでいたマンション出ると、監視員バックミンスターの隊長と副隊長である夫婦ふうふ――。


ブラッドとエヌエーの家に滞在たいざいしていた。


それは、偶然ぐうぜん深夜しんやの街でブレイクを見かけた夫婦が、彼を強制的きょうせいてき自宅じたくへ連れて行ったからである。



未成年みせいねんがこんな時間に外を彷徨うろついては駄目だめだと言われ、行くあてもなく、いつまでもついてこられるのも面倒めんどうだと思ったブレイクは、一晩ひとばんくらいはいいだろうと、二人の家にまることにしたのだ。


坊主頭ぼうずあたまの男性と銀髪ぎんぱつの女性――。


ブラッドとエヌエーの自宅じたくであるタワーマンションに入ったブレイクは、その広さにおどろいていた。


ゆとりある間取まどりをそなえた住戸じゅうこには、高水準こうすいじゅん内装ないそうの仕上げがほどこされており、住む人間のライフスタイルが優雅ゆがであることがわかるものだ。


それにくわえ、ルーフバルコニーではバーベキューでもできそうな大きさで、二.七メートル以上いじょう天井高てんじょうだか


まさに高級こうきゅうマンションといえる住まいである。


監視員バックミンスターとは、そんなに給料きゅうりょうがいいのか。


たしかに人員が最低限さいていげんの人数で構成こうせいされ、隊員の数よりも警備けいびドローンのほうが多いのもあるが。


それにしても一般人いっぱんじんが住むようなマンションではない。


ブレイクがそう思っていると、エヌエーが笑顔で声をかけてくる。


「すごいでしょ、ここ。あたしたちももう何年もここでらしているんだけど、いまだに馴染なじんでないんだよね」


なんでも彼女がいうには、このマンションはふるい友人からゆずってもらったものらしい。


バイオニクス共和国きょうわこくができたばかりのころは、安い四畳半よじょうはんのアパートに住んでいたらしいが、それを見かねた友人に言われてここへ住むようになったのだそうだ。


清貧せいひんもいいけど、苦労くろうしたお前たちが良い思いをしないと、親父おやじむくわれないだろうってね」


「メディスンのやつはいつもそんなことばっかいうからなぁ。そういうてめぇはどうなんだって話だよ」


友人を悪くいうブラッド。


だが、その様子ようすを見るに本心ほんしんからきらっているわけではなさそうだ。


それからブレイクは、よかったら好きなだけいていいと言われた。


次の日には出て行こうとしていた彼だったが、当面とうめんあいだ身をかくすのに、


監視員バックミンスターの隊長、副隊長の家は都合がいいと考え、しばらく居候いそうろうさせてもらうことにする。


ブラッドとエヌエーは仕事で家を空けることが多かったが、なるべくブレイクと食事を取るように心掛けていた。


それに二人は、ブレイクに学校へ行くように言ったり、家族のことを詮索せんさくするようなことはもなく、共和国から出られる算段さんだんがついたら出るつもりでいたが。


ある日に、このタワーマンションを二人に譲ったという彼らの友人があらわれた。


その二人の友人は、スーツ姿すがたでどこかかげのある男だった。


男はブラッドとエヌエーが留守るすのときにたずねてきて、ブレイクが二人は仕事で出かけているとを伝えると――。


「大丈夫だ。私の目的もくてきはお前に会うことだったからな」


そういって部屋に入ってきた。


ブレイクはいや予感よかんがしていた。


それは、彼が共和国の上層部じょうそうぶの一人である、ラムブリオン·グレイに追われている自覚じかくがあったからだった。


元々ブレイクとそのいもうとクリーンがこの国へ来たのは、ラムブリオンと契約けいやくをしたからだ。


ブレイクの望みは、かつて母と肩を並べたヴィンテージであるアン、ローズ·テネシーグレッチ姉妹か、ノピア·ラシックとの戦うこと。


そして、自分のせいで故郷を無くしたクリーンに、まともな生活をさせてやることだ。


一方ラムブリオンののぞみは二人が持つちから――。


共和国が奇跡人スーパーナチュラルと呼ぶ、加護かごを受けた人間のことを調しらべることだった。


奇跡人スーパーナチュラルの持つ加護の力は、実験や能力開発では解明かいめいできない未知みちなる力。


しかも二人の母親は、あの暴走ぼうそうするコンピューターから世界をすくったヴィンテージの一人――クリア·ベルサウンド。


その力さえ解明できれば、さらに共和国は進化できるとラムブリオンは考えた。


それからブレイクは、ラムブリオンの言われるがまま研究施設をたらい回しにされ、さらに戦闘データ収集しゅうしゅうのためにテロリストなどと戦わされていた。


だがミックスとの戦いの後から、彼は望んでいたヴィンテージとの戦闘に興味きょうみを失い、ついには住んでいたマンションを出た。


そしてブレイクは、まさかこのメディスンという男は、ラムブリオンに言われて自分のところへ来たのではないかと思っていた。


「少し、話をしようか」


メディスンはそういうと、部屋にあったソファーにこしを下ろす。


だがブレイクは、すわることなく彼の一挙いっきょ一動いちどうに目を向けていた。

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