#156

走るアイスクリームトラックの車内でたがいにあきれ合うブレイクとヴィクトリア。


そうしているうちに、エアラインからトラックのナビゲーションシステムに地図が送られてくる。


どうやら彼はブレイクのエレクトロフォンではなく、ヴィクトリアが運転する車のコンピューターにメールを送ったようだ。


「連中がいる場所はわかったのか?」


「うん、ここからなら三十分もあれば着くかな」


「よし、さっさと向かえ」


「いちいちエラそうに言うなッ! あんたはアタイをなんだと思ってんだよ!」


「たい焼き女。またはアイスクリームトラックの運転手」


「またたい焼き女って言ったなッ! それとアタイは運転手じゃな~い!」


ヴィクトリアは、ブレイクの認識にんしきはらを立てながらも車を目的地もくてきち近くに到着とうちゃくさせた。


それからアイスクリームトラックは適当てきとうなところへ駐車ちゅうしゃし、二人は車からりる。


ブレイクは、先ほどヴィクトリアにわたされた特殊とくしゅ警棒けいぼうのような伸縮式しんしゅくしきの剣を一振り。


すると、二十センチほどだった棒がその四倍か五倍までび、両刃りょうばの剣の形状けいじょうが出来上がる。


「今までのオモチャみてぇなヤツよりは使えそうだが、両刃ってはどうも馴染なじめねぇ」


「でも強度きょうどはバッチリみたいだよ。なんか特殊なゴキゲンにタンサンをぜたとか」


「あん? 特殊“合金ごうきん”と“炭素たんそ”の間違まちがいだろ?」


「おおッそれそれ! よく知ってんね! さすが共和国内の模試もしで一番取るだけのことはあるよ」


「オレが注文ちゅうもんしたんだから当然だ」


ブレイクはそう言うと伸縮式の剣をもともどす。


そして、目的地である場所――。


人気ひとけのない建物にかこまれた路地裏ろじうらへと目を向ける。


「こんなとこに潜伏せんぷくしてるってのかよ。マジでたんなるチンピラだな」


「それよりもあんた、武器はそれでいいとして、ちゃんと防弾ぼうだんベスト着ないと」


「あん? そんな動きづれぇもんいらねぇよ」


「なにいってんの!? いくらあんたがハザードクラスだからって実弾じつだんたれた死ぬでしょッ!?」


ヴィクトリアは、組織そしきから支給しきゅうされていた防弾ベストを着ながら、ブレイクにも身に着けるように言った。


だが、彼はスタスタと路地裏へと歩いて行ってしまう。


「テメェはここにいろ。鎮圧ちんあつはオレがやっといてやる」


「そんなわけいくかッ! アタイも行くよ。だいたい本来ほんらい任務にんむは、ここにいる連中から仲間の居場所いばしょを聞き出すことなんだからね」


「あん? あのさわやか仕切しきりヤロウはそんなこといってなかったろ?」


「あんたが話を聞く前に出てったからっしょッ!」


「まあいい。ようは一人でも生きてりゃ問題もんだいねぇんだよな」


そう言ったブレイクの顔は笑っていた。


それは、まるで皮膚ひふ火傷やけどただれたようなゆがんだ笑みだった。


ヴィクトリアは、そんなブレイクを見て恐怖きょうふしていた。


今までも彼は乱暴らんぼう口調くちょうで、ひど高圧的こうあつてき態度たいどであったが。


まだ年相応としそうおうおさなさというか雰囲気ふんいきはあった。


だが、今のブレイクはどうだ?


そばにいるだけで逃げ出したくなる――そんな瘴気しょうきはなっているかのようだ。


「十分、いや五分で終わらせてやる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る