#155

たたみの部屋を出て行ったブレイクは、目の前にあるエレベーターへと入る。


すると、彼の後を追ってきたヴィクトリアの姿すがたが見えた。


ブレイクは舌打したうちをすると、すぐにエレベーターのとびらを閉めようとしたが、んできた彼女はなんとか間に合う。


「ちょっとブレイク! いきなり一人でやるってなによそれ!?」


「あん? そのままの意味だ」


ブレイクの態度たいど文句もんくをいうヴィクトリアの手には、山のようまれていたたい焼きが持たれていた。


彼女はそのたい焼きを持っていたエコバックに入れながら、ブツブツと言葉を続ける。


「アタイらはチームなんだよ。それなのに勝手かってに行動するなんてダメじゃないの」


「仕事はオレ一人で十分じゅうぶんだっていってんだよ」


「そりゃあんたは強いかもだけど。向こうだっていろいろ対策たいさくくらい考えてるっしょ」


「それよりも生物血清バイオロジカルだっけか? たかがゴロツキのあつまりくらい監視員バックミンスターでなんとかできねぇのかよ」


監視員バックミンスターとは、バイオニクス共和国きょうわこく治安ちあん維持いじする組織そしきだ。


おもな隊員は、人格じんかく重視じゅうしえらばれており、共和国での問題は基本的きほんてきに彼らが対応たいおうしている。


だが隊員の数は少なく、主力しゅりょく警備けいびドローンなので何かと対応がおくれることが多いのが現実だった。


生物血清バイオロジカルやみまぎれて活動するから、そこはアタイらみたいな暗部あんぶの人間のほうが何かと都合つごういいってことっしょ」


ヴィクトリアはエコバックに入れたたい焼きを一つ手に取ると、モグモグと口にふくみながら言った。


それを見たブレイクははならす。


「あんたも食う?」


「いらねぇよ。ったく、たい焼き女が」


「なにそれひどくないッ!? アタイは鉄板てっぱんで焼かれてねぇつーのッ! それと何度も言ってるけど、アタイはギャルだから!」


「じゃあ、テメェはたい焼きギャルだ」


「それって……悪口わるぐち? でもたい焼きギャルってカワイイかも!」


それからたい焼き屋を出たブレイクは、不本意ふほんいながらも結局けっきょくヴィクトリアと共に生物血清バイオロジカル潜伏せんぷくしている場所へ向かうことになった。


ヴィクトリアは、再び乗り込んだアイスクリームトラックを発進させる。


彼女がいうに、エアラインとリーディン二人も後から現場に来るらしい。


「そういえばこれ、あんた用のっしょ」


ヴィクトリアはそういうと、エコバック手を入れてゴソゴソとし出した。


それは片手でハンドルを握りながらなので、ブレイクが怪訝な顔をしている。


「おい、何を出すつもりか知らねぇが運転中だぞ」


「大丈夫だよ。周りに車いないし、スピードも出してないし」


「そういう問題じゃねぇだろ」


注意してきたブレイクを気にせずに、ヴィクトリアは二十センチもない棒状のものを出した。


受け取ったブレイクは、警棒か何かと思っていると――。


「それはね。刃が収納しゅうのうされてて、振り出せば立派な剣になっちゃうすぐれものなんだってさ」


ヴィクトリアが得意気とくいげに説明してくれた。


どうやらこの警棒のようなものは剣になるようだ。


ブレイクは早速ためしにと車内で振ろうとしたが、ヴィクトリアに止められる。


「あわわッ!? せまいとこで刃物を振っちゃダメッ!」


「なんだよ、別にいいだろ。オメェの車じゃねぇんだし」


「そういう問題じゃないんだよ! まったく、常識じょうしきがない子だなぁ、あんたは」


「試し振りは常識だ」


「そこがもうズレてるんだよ!」


そして、今度はヴィクトリアのほうがブレイクにあきれた

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