#151

――スーツ姿すがたの男が連絡を受けていた。


くらな部屋には大きなモニター画面があり、そこにはフェイスナッシングと英字えいじ表記ひょうきされている。


その文字の意味いみは顔無し。


ようは音声のみということだ。


スーツ姿の男の名はメディスン。


バイオニクス共和国の前身ぜんしん組織そしきであったバイオナンバーの時代から所属しょぞくしている重鎮じゅうちんである。


まだ二十代というわかさだが、共和国内でもそれなりに発言力はつげんりょくを持っている人物だ。


そんな現在げんざいの彼は、共和国の暗部あんぶ組織ビザールの一人。


メディスンは今、ミックスたちが乗っていた科学列車プラムラインが、無事に共和国に到着とうちゃくした報告ほうこくを聞いている最中さいちゅうだった。


報告を聞き終えたメディスンは、モニター画面の相手に、ジャガーにはしっかり休むようにつたえておくように言って通信つうしんを切る。


加護かごを受けた強盗ごうとうか……。陶器とうきオオゲツの話は今後の参考さんこうになりそうだな」


メディスンは、そうブツブツ言いながらデスクに手をかざした。


すると、真っ暗だった室内に薄暗うすぐらあかりが付き始める。


すると、その薄暗い灯りにらされ、一人の少年の足音が聞こえてきた。


少年がデスクの側に立ち止まったが、メディスンは振り返ることはない。


「おい、メディスン。言われてた仕事は片付かたづけたぞ」


少年は口を開いた。


あきらかに年上のメディスンを相手にずいぶんと乱暴らんぼう口調くちょうだ。


白髪はくはつ和服わふくのような格好かっこうをしている彼の名は、ブレイク·ベルサウンド。


ハザードクラスにかぞえられるもっとすぐれた能力を持つ人物の一人だ。


その彼の持つ武器であり、相棒あいぼうでもある小鉄リトル スティールの変化した姿――。


漆黒しっこく日本刀にほんとうから“くろがね”の二つ名で呼ばれている。


「そうか、なら次の仕事だ。ジャガーのやつには休みをやった。そいつをお前が引きいでくれ」


「人使いがあらいのはかまわねぇが、もっとマシな得物えものをよこせ。もろすぎてすぐにオシャカになっちまう」


「あのクリア·ベルサウンドが使っていた小鉄リトル スティール小雪リトル スノーのような武器がここにあると思っているのか? そこは量産品りょうさんひんでなんとかしてみせろ。たしかお前のそだった国に弘法こうぼうふでえらばずという言葉があったろう。達人たつじんの実力というのは得物に左右さゆうされないものだ」


「チッ、言ってくれるな」


ブレイクは不機嫌ふきげんそうに舌打したうちをすると、その場から立ちっていく。


彼のそばには、いつも一緒にいた黒い犬――小鉄リトル スティールの姿はなかった。


一人去っていくブレイクにメディスンが声をかける。


「おい、待てブレイク」


「あん?」


「仕事へ行く前にジャガーに連絡しておけ。それでくわしい内容ないようと、お前用に作らせた得物のことがわかるはずだ」


「なんだ? ちゃんと用意よういしてんじゃねぇか。もったいつけてんじゃねぇよ」


「それと、今回は相棒がいる。少しは仕事が楽になるだろう」


「あん? いらねぇよそんなの。オレ一人で十分だ」


そう返事をすると、ブレイクは薄暗い灯りからやみへと消えていった。


彼は、ひたい青筋あおすじを立てながら笑っている。


その笑みはひどゆがみ、まるで焼けただれているかのようだった。


「さて、まずは先輩せんぱい挨拶あいさつだな」


そして、ポケットからエレクトロフォンを出し、ジャガーへと電話を掛けた。

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