#148

プロコラットを道連みちづれに走行中の列車の外へ身を投げたジャガー。


爆発のいきおいで、最初に使用した手榴弾しゅりゅうだん破壊はかいしたかべからき飛ばされていった。


この科学列車プラムラインはソーラー発電はつでんで動いている。


今はもう深夜しんやになるが、昼間にめた電気を蓄電池ちくでんちうつしているので運転に問題はない。


だが、プラムラインは特殊とくしゅな列車のため、設置せっちされている線路せんろ――二本のレールに蓄電池やソーラーパネルなどの車内にまった電流でんりゅう放電ほうでんする必要がある。


時速百五十キロで走る列車からほうり出されれば当然無事では済まないが。


放電している車輪しゃりんと電気を帯びているレールに触れれば確実に感電死。


そのうえ車輪は高速こうそくまわっているのだ。


巻きまれたらまず助からないだろう。


ちゅうを舞うジャガーとプロコラットは、まさに今その車輪に巻き込まれそうになっていた。


だが、そのとき――。


運転席車両からくさりが放たれ、プロコラットの体をしばり上げた。


「ユダーティ! 気が付いたのかッ!?」


鎖を放ったのは最初の爆発で気をうしなっていたユダーティだった。


その鎖に縛り上げられたプロコラットは、落ちる寸前すんぜんのところでジャガーの体を両足ではさむようにつかむ。


ジャガーはプロコラットのしていることが理解できなかった。


今こうやって列車から投げ出されたのは自分の仕業しわざなのだ。


それなのに、この男はわざわざてきである自分のことを助けた。


ジャガーはそんなプロコラットのことを、この状況じょうきょうでよくそんなことができるなと、あきれて笑ってしまう。


だがユダーティの腕力わんりょくでは、二人分の体重を引っ張ることはむずしく。


このままでは彼女まで列車から投げ出されてしまう。


「わりぃがジャガー。お前を助けてやることはできなそうだぜ」


「そりゃそうだ……。あんたもあいつに負けず劣らずお人好しだよな……」


「おいユダーティッ! 今すぐ鎖を放せ!このままじゃお前まで落ちるぞッ!!」


だが、ユダーティは鎖を手放さなかった。


プロコラットは聞こえていないのかと思い、何度も声を張り上げたが、一向に自分たちが鎖によってられている状態は変わらない。


「クソッタレッ! 列車の走る音でおれの声がとどいてねぇのかッ!?」


ちがうぜ、プロコラット……。彼女は……ユダーティはあんたと同じだ……。なんとかオレたちを助けようとしている……」


ジャガーにそう言われたプロコラットは、体に巻き付けられた鎖をはずそうとしたが。


強風きょうふうに吹かれながらさらに両手も使えない状態では、上手うまくことも引き千切ちぎることできなかった。


このままではユダーティまで列車から投げ出されてしまう。


あせるプロコラットは、のどり切れるかと思うほど声をあらげ続ける。


そんな彼を見てジャガーが笑みをかべたまま口を開く。


「何やってんだ? さっさとオレを落とせばいいだろう。そうすりゃあんたもユダーティも助かる」


「ふざけんなよバカッ! そんなことできるかよッ!!」


「だよな。あんたならやっぱそうするよな。ついでに、もう能力も解いてくれてる」


プロコラットの両足に挟まれているジャガーは、自分の肌にハリと弾力が戻っていることに気が付いた。


衰弱は収まり、手足が滑らかに動く。


陶器オオゲツの能力が解除されたのだ。 


しかし、ジャガーのことなどよりも、今のプロコラットはユダーティのことで頭がいっぱいだった。


なんとかして彼女に鎖を放してもらわないと、このまま自分たちと共に列車に投げ出されてしまう。


それだけは駄目だ。


プロコラットは自分が死ぬことは構わなかったが、ユダーティが死ぬことを恐れていた。


「放してくれ、放してくれよユダーティッ!! お前まで死んじまうなんて、俺はイヤだッ!!!」


彼は、まるで泣き喚く子供のような言い方で声を張り上げ続けた。


すると、女性の呻き声のような叫び声が返ってくる。


「いあぁッ!! いあぁぁぁッいぁぁぁッ!!!」


それはユダーティの叫ぶ声だった。


彼女は潰れている声帯を無理矢理に震わせながら、言葉にならない声で叫び返してきた。


彼女の悲痛な声は言葉にはなっていなかったが、その想いは痛いほど伝わってくる。


彼女はプロコラットを失いたくないのだ。


「ホントにイイ女だな、ユダーティは」


ジャガーが呟くが、プロコラットは涙を流しながら訴える。


頼むからその鎖を放してくれ。


お前まで死ぬ必要はないと。


そんな彼にジャガーが言う。


「大丈夫、大丈夫だよプロコラット。オレもあんたもユダーティも、この列車に乗っている連中も、誰も死なねぇ」


「こんなときになにいってんだオメェはッ!?」


「そりゃ言うさ。オレの見せ場はここで終わりなんだからな」

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