#147

プロコラットはユダーティからつたえられたことを思い出していた。


もし自分たちがこの科学列車プラムラインに強盗ごうとうをしたら、まず真っ先に止めに来るのはミックスであると。


それは陶器とうきオオゲツにそそがれたワインを飲んでいたため、身体の自由がきくからではない。


ましてや安っぽい正義感せいぎかんからでもない。


彼は、ただ誰かがきずつくことがきらいなのだ。


だが、もっとも警戒けいかいすべきなのはミックスではない。


それは、彼のそばにいたボサボサ頭の少年――ジャガーだ。


ユダーティはジャガーをミックスと同じ善人ぜんにんだとは判断はんだんしていたが、目的もくてきのためにどんなことでもするようなタイプだという。


そういうタイプが一番油断ゆだんができない。


それにジャガーの目は、ヴィンテージであるアン·テネシーグレッチをどこか似ていると。


――そのときはあまり気にしていなかったが。


プロコラットはまさにその言葉どおりだったと思い知らされる。


(ユダーティの人を見る目はたしかだった! こいつの動きは素人しろうとじゃねぇ! こいつは、何年も戦場にいたヤツの動きだッ!)


ユダーティは最初にミックスたちと会ったときに、二人をやさしい人間だと思った。


だが一見いっけん飄々ひょうひょうとして見えるジャガーのほうには、何か得体えたいの知れないすごみを感じ取っていたようだ。


プロコラットは何度もこぶしを振り回しながら、が恋人ながらさすがだと思い、ついニヤニヤしてしまっていた。


「なに笑ってんの?」


「いや~やっぱ俺のユダーティはスゲーなぁってよ!」


惚気のろけもずっと聞いてると気にならなくなるもんなんだな……」


だが、それがどうしたというのだ。


ジャガーはたしかに歴戦れきせん強者つわものなのかもしれない。


自分よりもずっと死線しせんくぐけてきたのかもしれない。


しかし、それでも所詮しょせん常人じょうじん


奇跡人スーパーナチュラルである自分のてきではないと、内心ないしんでさらに笑う。


「いくら高等技術テクニックだなんだつったってな! つかまえちまえば俺の勝ちなんだよッ!」


すでにかなり衰弱すいじゃくが進んでいたジャガーは、プロコラットの両腕にその体をつかまれた。


そのとき、プロコラットは勝利を確信かくしんした。


単純たんじゅん力比ちからくらべでジャガーが自分にかなうはずがない。


このまま一撃なぐりつければ終わりだと、しんじてうたがわなかった。


「よくやったよお前は。じゅうの腕、自分よりも強い相手にビビらずんでくる度胸どきょう。とてもただの高校生とは思えねぇ」


「そいつは、どうも……」


身動きをふうじられたジャガーは、もうしゃべることもくるしそうだった。


その張りのあったはだツヤも、今では老人のようにからびている。


プロコラットは、れ木のようになったジャガーを力まかせに引っ張り上げた。


されるがままのジャガーは一人で立っていられないのか、プロコラットの体にしがみつく。


「はぁ~ヴィンテージの右腕みぎうでってのは……やっぱらくじゃない……ねぇ……」


「あん? ヴィンテージだぁ?」


任務にんむ遂行すいこうしながらあいつののぞみもかなえる……。オレの仕事はいつもえてばっかだな……」


「お前、さっきからなにをいってんだよ?」


「このあんたが使っている、結界内にいる者の生命力をうばう能力……。たしか五穀の恩寵グレイングレースとか言ったっけ?」


ジャガーはそういうと、手ににぎんでいた物をゆかに落とした。


「なら……あんたが列車からいなくなれば……ミックスは復活ふっかつすんだろ?」


落とした物は、先ほど彼が使った手榴弾しゅりゅうだんだった。


ピンはすでに抜かれている状態じょうたいだ。


それに気が付いたプロコラットはあわててその場をはなれようとしたが――。


「わりぃが……オレと来てもらう……」


ジャガーがしがみついてきて動きを止められてしまう。


「ジャガーッ!! お前、これを狙ってやがったなッ!! バカがッオメェも死ぬ気かよぉぉぉッ!!!」


いくら叫ぼうがもう間に合わない。


手榴弾が爆発し、その衝撃によってプロコラットとジャガーは時速百五十キロで走る列車から投げ出された。

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