#143

馬乗りになったプロコラットは、そこからこぶしを振り下ろす。


ミックスが両腕を機械化させて防御ぼうぎょしようがおかまいなく、何度も拳の雨を降らす。


「かてぇな! やっぱ機械はかてぇッ!」


ジャガーは、一心いっしん不乱ふらんなぐりつけるプロコラットをミックスの体の上から退かそうと動いたが、ユダーティははなったくさりでそれを阻止そしされてしまった。


そのときの彼女の表情――あれだけあたたかい笑みをかべていたユダーティの顔は、おそろしいほどつめたいものに変わっている。


(……どうやら普通ふつうの鎖っぽいな。ってことは加護かごを持ちの奇跡人スーパーナチュラルはプロコラットだけってことか)


ならば、この列車に乗っている人間を衰弱すいじゃくさせているのはプロコラットのちから


そうなら話は早い。


どうにかしてプロコラットの意識いしきうばうか、またはこの列車から外へ追い出してやればいい。


ジャガーは、ミックスにまたがっているプロコラットに近づけないながらも、そんなことを考えていた。


「おいミックス! こっちは助けに行けそうにねぇ! 自分でなんとかしてみせろッ!」


「そう簡単かんたんにいくかよ。こっちは格闘技かくとうぎでいうところのフィニッシュ態勢たいせいに入ってんだぜ!」


声を張り上げながら返事をするプロコラット。


だが突然、マンションポジションをとっていた彼の体がき飛ばされた。


それはミックスが背筋はいきんを使い、下から彼のこしを押し上げたからだった。


そのあいだに態勢を立て直したミックスは、ふたたびプロコラットへと飛び掛かる。


「何度やっても同じだミックスッ! お前のパンチがいくら速くても俺には当たらねぇんだよッ!」


プロコラットがさけんだように、ミックスの拳はやはり空を切る。


しかし、それでもミックスは攻撃こうげきの手をゆるめずに拳をり出していく。


それをけながらプロコラットは思う。


ミックスはスピードもパワーも自分よりも上だ。


動きは素人しろうと丸出しだが、その気迫きはくのこもった動きには油断ゆだんできないものがある。


反撃を恐れずにふところに飛びんでくる思い切りもいい。


それを見れば、それなりの修羅場しゅらばくぐってきたこともわかる。


だがしかし――。


動きが正直ぎる。


けた方向ほうこうに目が行き、次に何をするかが読める。


おそらくこの少年は、今までも相手をたおすためではなく、止めるための戦いをしてきたのだろう。


一撃一撃に殺気さっきがない。


それに無意識むいしきなのだろうが、相手の急所きゅうしょを避けているところがある。


それでは余程よほど実力じつりょくの差がないかぎり、相手の動きを止めることなど不可能ふかのう


つまりこのやさし過ぎる適合者てきごうしゃでは、自分に勝つことはできない。


プロコラットは、ミックスのその優しさを思うと顔をしかめていた。


「優しいなぁ、優しすぎるぜ……ミックスゥゥゥッ!」


次の一撃で終わらせる。


プロコラットはそう思い、反撃に出た。


先ほどと同じくミックスの拳を出すタイミングに合わせてカウンター。


それで終わるはずだった。


「ッ!? なんだ身体がッ!? ぐはッ!!」


だが、ぎゃくに吹き飛ばされたの彼のほうだった。


自分の横を飛んでいくプロコラットを見たユダーティは、はげしく動揺どうようすると、かべたたきつけられた彼のそばけ寄る。


プロコラットは壁に背をあずけたまま、両目を見開いてミックスを見上げた。


「なんだよ、今のは……? 身体がにぶくなったぞッ!? おい……おいおいおいミックスッ! お前ッ……なにしやがったッ!?」


声を張り上げて叫びいたプロコラットだったが、ミックスが彼のいに答えることはなかった。

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