#144

プロコラットは寄りってきたユダーティに大したことはないとつたえると、そのまま立ち上がった。


そして、大きく開いた両目をほそめ、だまったままのミックスをにらみつける。


さっきのはなんだ?


突然身体がにぶく、いや重くなったような感覚かんかくおそわれた。


マシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃにそんな能力はなかったはずだ。


一体にミックスは自分の何をしたのか。


少しのあいだだけ思考しこうめぐらせたプロコラットだったが、すぐに頭を切り替えてミックスと向かい合う。


おれは頭がわりぃからよ。考えても考えてもわかりそうにねぇや。つーかお前もよくわかってねぇだろ?」


身構みがまええるミックスに、プロコラットは言葉を続ける。


「それとも説明せつめいできない事情じじょうでもあんのか? まあいいや。ちなみにもう気が付いているんだろうが、俺は奇跡人スーパーナチュラルとかいうやつだ」


それからプロコラットは、自分の受けた加護かごちからについて話し始めた。


あるときに正体しょうたい不明ふめいの集団――。


バイオニクス共和国なのか永遠なる破滅エターナル ルーインなのかわからない者たちにおそわれたプロコラットたちは、なんとか逃げ出すことに成功したが、そのときにユダーティが大怪我おおけがわされた。


そんな彼女を連れ、洞窟どうくつかくれたプロコラットは、きずいたみでうなされているユダーティを見て無力感にさいなまれる。


自分がもっと強かったら、ユダーティはこんなに傷つくことはない。


何故自分は弱いのだ。


好きな人、大事な人ひとりまもれない。


体をいくらきたえても――。


いくら実戦経験けいけんかさねても――。


武器を持った集団にかこまれたらそれで終わりだ。


もっと、もっと力がいる。


ヴィンテージやハザードクラスのような常人じょうじんはるかにえる力だ。


「ごめんなぁ……俺が弱いばっかりに……。ホントにごめんなぁ…」


プロコラットが泣きながらうなされているユダーティの手をつかむと、当然声をが聞こえてきそうだ。


その声は、いつの間にか現れた陶器とうきから聞こえ、プロコラットはただ無意識むいしきに手をばしていたという。


「なんか食物をつかさどる神具しんぐ? オオゲツとかいう陶器らしいんだわ。くわしいことはわからねぇが、陶器こいつは俺にこの世界であばれろと言ってきたんだよ」


それからプロコラットは、オオゲツの加護かごたことを理解りかいすると、陶器に言われたように世界中で暴れまわった。


それが、まずしい者をしいたげる金持ちブルジョアから金を巻き上げること――。


つまり強盗ごうとう生活の始まりだったようだ。


「あとなぁ、これまたよくわかってねぇんだけど。この列車内すべてに起こっていることは、この陶器の力なんだわ」


その能力の名は五穀の恩寵グレイングレース


オオゲツの加護を受けたプロコラットが張った結界内けっかいないにいる者の生命力をうばう力だ。


プロコラットはそれから何故ミックスとジャガー、そしてユダーティは衰弱すいじゃくしないのかと話したが、すでに彼らは理解していた。


「その陶器――オオゲツにそそいだ酒を飲んだからだろ」


「なんだよ、わかってたのか。じゃあ、どうして説明ぎらいな俺がこんな面倒めんどうなことを話しているかわかるか?」


これだけベラベラとしゃべっていてよく言えるな――。


ミックスとジャガーがそう思っていると、自分たちの身体の異変いへんに気が付く。


「気が付いたみてぇだな。そうさ、もう時間切れなんだよ」


二人は、急激きゅうげきに手足がだるくなり、呼吸こきゅうするのもつらくなってきた。


しかも、自分の手を見るとわかる。


あの症状しょうじょうひどかった一等客室の者たちと同じように、まるで一気いっき年老としおいていたかようにから始めているのだ。


このままではやがて身体が衰弱すいじゃくし、戦うどころか立っているのもくるしくなるのは目に見えていた。


「悪いことは言わねぇ。ここらが潮時しおどきってヤツだぜ」

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