#141

うつむいていたミックスは顔を上げてさけんだ。


彼はプロコラットの考えを理解りかいしたうえで、それでも関係のない人間が死ぬことは間違っているとつたえる。


ミックスの言いぶんを聞いたプロコラットは、先ほど見せたけわしい表情へと変化する。


そして、彼のことをそのするど眼光がんこうにらみつけた。


「お前は金持ちブルジョア意地いじでも助けるってことか? ならおれてきを助けるやつは敵だッ! つまりミックス、お前は俺の敵だッ!」


プロコラットが叫ぶと、すわっていたユダーティが立ち上がった。


ミックスの後ろにいたジャガーも、手ににぎっていたオフヴォーカーをかまえる。


「俺は……二人のことが大好きだよ。こんなみじかい時間でこんなに仲良くなれたのははじめてだし……。だけど、これだけはゆずれない! 俺はあんたたちを止めてみんなを助けるッ!」


いたツバは飲むなよ、ミックスッ!」


プロコラットがミックスを押さえつけようと、ゆっくりと歩き出した。


ジャガーがプロコラットにオフヴォーカーの標準ひょうじゅんを合わせようとしたが、ミックスがそれを手でせいした。


手を出すなと言いたいのか。


ジャガーはこんなときに何を考えているんだと思っていると、ミックスの腕が機械きかいへと変わっていった。


その白い無骨ぶこつ装甲そうこうは彼の腕をおおっていき、やがて手から肩口かたぐちまですべてが機械へと変化する。


これはマシーナリーウイルスのちから


適合者てきごうしゃと呼ばれる者が持つ装甲アーマードといわれるものだ。


機械化した部分は、常人じょうじんはるかに超える身体能力をて、目の前の敵を粉砕ふんさいする。


かつてストリング帝国が開発した生体兵器せいたいへいき――機械兵オートマタを生み出す研究けんきゅうのより生まれたウイルスだ。


「吐いたツバなんか飲まないよッ!」


ミックスはゆっくりと向かってくるプロコラットの顔面に、その機械のこぶしたたきつけた。


だが、プロコラットはたおれない。


そのはなや口からはダラダラと血をながしているが、その場から一歩いっぽ後退こうたいしていない。


「お前、適合者だったのかよ……」


プロコラットはそう言いながらミックスの機械の腕をつかむ。


「だけどな、この程度ていどで俺を……俺とユダーティを止められると思ってんのか? 止めようとしても、止められないのが俺たちだってんだ。このクソガキがッ!」


そして、ミックスのボディへ拳をめりませる。


ミックスは、その衝撃しょうげきで運転席車輌しゃりょうの出入り口までき飛ばされてしまった。


「ミックスッ!?」


ジャガーがさけぶ。


かべに叩きつけられたミックスは胃液いえききながらうめき、とても返事はできそうになかった。


「俺の知ってる適合者はこんなもんじゃなかったぜ」


鼻と口から出る血をぬぐいながら、プロコラットはミックスとジャガーのそばへと近づいて来る。


「おいミックス、今の手加減てかげんしたろ? そりゃあめぇんじゃねぇか? なるべくきずつけないように俺を止めようってのがわかるパンチだったぜ」


そして二人の前に立ち、自分の両方の拳を組んでボキボキとらし始める。


そのときのプロコラットは、顔はヘラヘラしているものの、何故かものすご不機嫌ふきげんそうに見えた。


「ステゴロで俺とやるつもりなら、その手加減なんていう上から目線しせんをやめろ。それをまえてだなぁ。もう一度かかってこいよッ!」

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