#111

――すべてが終わり、監視員バックミンスターがようやくリーディンが半壊はんかいさせた現場にたどり着いたころ――。


白衣はくい姿すがたの老人がモニター画面を前に一人狂喜きょうきしていた。


「ほうほう、ほうほうほうほうッ♪ 素晴すばらしいッ!」


老人は、まるで鳥綱ちょうこうフクロウもくフクロウフクロウぞく鳥類ちょうるいき声のようなものを口からはっしし、その場で小躍こおどりを続けている。


その姿は、まるで無邪気むじゃきにはしゃぐ子どものようだ。


「今回のデータによりルーザーリアクターはさらに進化しんかするッ! いやいやそれにしても、まさか赤の他人たにんなついてみせるとはッ! そこで発揮はっきしたちからはまさしくかみと呼ばれたコンピュータークロエッ! 私は神をつくることに成功せいこうしたのだ。くぅぅぅッ! これだから実験じっけんはやめられんッ! 早いとこ彼女を回収かいしゅうし、さらなる段階だんかいへとうつらねばッ!」


老人の名はアイスランディック·グレイ。


バイオニクス共和国きょうわこくの自然エネルギー、再生さいせい可能かのうエネルギーの権威けんいであり、共和国内すべての電力をまかなっている太陽光たいようこう発電はつでん水力すい発電、風力ふうりょく発電、地熱ちねつ発電装置の開発者かいはつしゃである。


そして、ルーザーリアクターと呼ばれるサービスを造り、彼女に自我じがあたえた人物じんぶつでもあった。


さらにエレクトロハーモニーしゃが造り出した人型ひとがた戦闘用せんとうようドローン――ナノクローンに、サービスをおそわせた張本人ちょうほんにんでもある。


アイスランディックが一人画面にしゃべり続ける中、一人の少年がそのうしろからあらわれた。


「ずいぶん楽しそうっすね。ドクターアイスランディック」


「おッきみはジャガー·スクワイアくんじゃないか!」


アイスランディックの前に現れたのは、ミックスの同級生どうきゅうせいであり友人でもあるジャガーだった。


ジャガーはひど面倒めんどうくさそうに、はしゃいでいる老人に近づいて行く。


ボサボサあたまきながら、まるで仕事しごと休憩きゅうけい時間じかんが終わってしまったような、そんな様子ようすだ。


一方いっぽうのアイスランディックは、彼に何かつたえたかったことがあったのか、その興奮こうふん状態じょうたいのまま言葉を続けていく。


「ほうほう、これはメディスンくんに連絡れんらくする手間てまはぶけたね。早速さっそくビザールにたのみたいことができたんだよ」


ビザールとは、バイオニクス共和国にある暗部あんぶ組織そしきだ。


その存在そんざいおおやけにされていないが、アイスランディックのような共和国の元上層部じょうそうぶだった者なら、当然とうぜんその存在も知っている。


メディスンとは、ビザールのリーダーの一人であり、ジャガーは彼の部下ぶかだ。


「さあ、ジャガーくん。私の小さくて可愛かわいい神を、すぐにここへ連れてきてくれたまえ」


「そうっすね。たしかにあの子は小さくて可愛い……が」


そういうと、それまで覇気はきがなかったジャガーの顔が、急につめたいものへと変わった。


そして、彼はかくしていた拳銃けんじゅうのようなものをアイスランディックに向ける。


その拳銃の名はオフヴォーカー。


エレクトロハーモニー社が、ストリング帝国兵ていこくへい標準ひょうじゅん装備そうびであるインストガンを拳銃サイズに改良かいりょうし、さらには外観がいかん肉食獣にくしょくじゅうを思わせる銃口じゅうこうにした電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置そうちだ。


オフヴォーカーを向けられたアイスランディックは何かに気が付いたようで、よろこんでジャガーに両手りょうてを差し出す。


「そうだったね。君は私をつかまえに来たんだった。いやいやすまないすまない。実験は釈放しゃくほうされた後だね」


アイスランディックは上から禁止きんしされていたルーザーリアクターを起動きどうさせ、さらには自我すら与えてしまった。


そのことにより、共和国上層部は彼をらえるようジャガーにめいじていたのだ。


だが、アイスランディックは元とはいえ共和国の上層部であり、その頭脳ずのうもあって彼の支配下しはいかにある研究所けんきゅうじょいまだに多い。


そのため適当てきとう期間きかん拘留こうりゅうし、きっとすぐに出で来れるのだろう。


だからアイスランディックは喜んでジャガーに捕まろうとしているのだった。


残念ざんねんだが、実験は永久えいきゅう中止ちゅうしだ。何故ならあんたはここで死ぬんだからな」


「私が? ここで? それは本当に上層部の命令かね?」


「いやちがうよ。この命令はストリング帝国の将軍しょうぐんノピア·ラシックからだ」


「ほうほう、ほうほうほうほうッ♪ ノピア·ラシックッ! 彼がッ! あの世界を神からすくった適合者てきごうしゃがッ! すまないジャガーくん。私は死んでもかまわないから是非ぜひともヴィンテージであるノピア将軍に会わせてもらえないかね! ころすならその後でにしてくれないか、おねがいだよッ!」


アイスランディックは自分が殺されることをおびえていなかった。


むしろノピア·ラシックの名を聞いた彼は、さらに喜んでいるように見える。


「悪いが、将軍はあんたみたいなイカレた科学者かがくしゃと会ってるひまはないんでね」


ジャガーそのこおりのような表情ひょうじょうのままそういうと、オフヴォーカーの引き金にゆびをかけた。

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