#102

一通ひととおりの話を終えたアミノは、もう少し調しらべてみるといって通話つうわを切り、ミックスはエレクトロフォンをポケットにしまう。


彼のとなりではねむっているサービスを抱いたまま顔を強張こわばらせているジャズの姿すがたがあった。


何かに思いめているような、そんな様子ようすだ。


先ほどエヌエーのおかげで張り詰めた空気がゆるんだというのに、またもともどってしまっていた。


ミックスはなんとかそのおもい空気を変えようと行動こうどうこす。


「ねえジャズ。今夜こんやのご飯はなにがいかな?」


たずねられたジャズは、そのするど眼差まなざしをミックスへと向けた。


その視線しせんと目を合わせたミックスはタジタジになる。


こんなときにご飯の話なんかしてんじゃないわよ! と、頭突ずつきをらう覚悟かくごをしたが――。


「そうねぇ……。でもあんたが作ったものなら、サービスはなんでも美味おいしいっていうんじゃない?」


いつもの一撃いちげきが来ることはなかった。


ジャズはミックスにこたえると、微笑ほほえみながらまたサービスの寝顔ねがおを見ている。


そのときの彼女は、今までミックスが見たこともないような表情ひょうじょうをしていた。


いつも気を張ってまわりをにらむような目つきのジャズとはまるで別人べつじんだ。


あえてたとえるのなら母親のようだといえるか。


ミックスはそんなジャズを見て、むねが高まっていくのを感じていた。


「よ、よし! なら今夜はハンバーグオムライスだッ! 我が家秘伝ひでんの料理をついに解禁かいきんしちゃうよッ!」


突然とつぜん声を張り上げたミックス。


ジャズはハンバーグとオムライスの何が秘伝なのかと思っていると、彼に続いてエヌエーも大声を出す。


「それならあたしも頑張がんばっちゃう! みんなにはサンドアリゲーターの唐揚からあげを作ってあげるね」


サンドアリゲーターとは、おも砂漠さばく地帯ちたい生息せいそくする、ワニとよくている爬虫類はちゅうるいだ。


エヌエーが前に住んでいたところでは食料しょくりょうとぼしく、なんとかサンドアリゲーターの肉を工夫くふうして美味しい味付あじつけを考えたらしい。


今でもふるい友人と会うときには、かなら食卓しょくたくに出す料理なんだそうだ。


「サンドアリゲーターって……食べれるの?」


ジャズにとってはサンドアリゲーターは爬虫類。


とてもじゃないが、あんなグロテスクな生き物の唐揚げなんて食欲しょくよく出るものではない。


それはニコも同じだったようで、今にも嘔吐おうとしそうな声でいている。


だが、ミックスはちがった。


彼はサンドアリゲーターが美味しく食べられるのかと、目をかがやかせながらエヌエーにいている。


エヌエーはそんなミックスに、ほかにも変わった料理りょうりがあることを話しはじめていた。


それは野宿のじゅくなどで食料がきたときに、ネズミや虫などを美味しく調理ちょうりする方法ほうほうだった。


ジャズは、ゲテモノ料理話に花を咲かせていた二人をながめながら、次第しだいに顔が青ざめていた。


ニコのほうはもうを通りし。


エヌエーがそのうち電気でんき仕掛じかけの自分を美味しく食べる方法を見つけるのでないかと、恐怖きょうふにおののいている。


「いま思ったんですけど……。いきなりこんな大人数でエヌエーさんの家に行ったら迷惑めいわくになるんじゃ……」


「気にしないで。ブラッドはにぎやかなほうが好きだし、それにうちにはもうやんちゃな子が一人住んでいるしね。ジャズちゃんもミックスくんもサービスちゃんもドンと来いだよ。もちろんニコねッ!」


エヌエーに近づかれたニコは、ビクッとおどろくとおびえながらジャズのかげかくれてしまった。


どうやらエヌエーの友人が、ニコと同じタイプの電気仕掛けの仔羊こひつじを連れていたようで、彼女はなつかしさもあってとてもうれしいそうなのだが。


「あれーなんで逃げちゃうんだろ? あたし、なんかしたかな?」


「とりあえず、ニコにエヌエーさんの料理話はしないほうが良いと思います……」


不思議そうにいうエヌエー。


ニコが何を思っているのかに気が付いたジャズは、そんな彼女へかなり間接的かんせつてきな言いまわしをしてつたえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る