#93

それから食事しょくじませ、デザートでもとミックスが売店ばいてんへソフトクリームを買いに行く。


なかいっぱいになったサービスは、朝からはしゃぎまわったせいか、そのまま椅子いすりかかってねむってしまっていた。


ジャズは、本当によく眠る子だなとそんな彼女の顔をながめている。


すると、何やらまわりにいた親子がさわぎだしていた。


みなある方向ほうこうを見て歓喜かんきの声をあげている。


ジャズは、このアミューズメント施設しせつの出しものか何かだと皆が騒いでいるほうを見てみると――。


「あれは……ナノクローンじゃないのッ!?」


ありないものを目撃もくげきした。


ナノクローン――。


全高ぜんこう3.5メートル、重量じゅうりょう2.2トン。


無骨ぶこつ金属きんぞく装甲そうこうにブルーのカラーリングがほどこされ、通信つうしん装置そうちとスモールコーラスというビーム兵器へいき搭載とうさいしたエレクトロハーモニー社製しゃせい戦闘用せんとうようドローンである。


以前いぜんに、彼女の叔父おじであるブロード·フェンダーが、バイオニクス共和国きょうわこくへテロ行為こうい仕掛しかけたときに連れていたものだ。


それがどうしてこんなところに?


いや予感よかんが止まらない。


ジャズは唖然あぜんとしながらも、すぐに気持ちを切り替えてこの場をはなれようとした。


眠っているサービスとニコをき、一刻いっこくも早くフードコートから出ようと走り出す。


すると、ゆっくりとすすんでいたナノクローンがきゅう速度そくどを上げはじめた。


ナノクローンはフードコートにあったテーブルや椅子、ドローンをね飛ばしながらすぐぐにジャズたちのほうへと向かってくる。


「なんなのよもうッ! やっぱりサービスはドローンにねらわれているワケッ!?」


わめきながら逃げるジャズ。


彼女はまわりを見ながら人がいないところ、できるだけ足止めできそうな障害物しょうがいぶつの多いところへと走るが、それでもナノクローンは止まらずにいかけてくる。


両腕りょううで付けられたビーム兵器――スモールコーラスをはなちながら、さらに追いかける速度を上げていく。


ジャズの実力じつりょくなら、たった一機いっきの戦闘用ドローンくらいたおせるのだが。


反撃はんげきしようにも今日の彼女は、当然とうぜん武器ぶきなど持っていない。


おまけにサービスをかかえたままでは戦えない。


どうする、どうすればいいと、ジャズはこころの中で咆哮ほうこうする。


「ったく、こんなときにミックスはなにしてんのよッ!」


ジャズがそう叫ぶと、うでの中にいたニコが悲鳴ひめいをあげるようにいた。


すでにナノクローンが彼女の真後まうしろまで来ていたのだ。


ダメだ、このままではやられる――。


ジャズがせめてサービスとニコだけはまもろうと、走りながらもその身をかためた。


その瞬間しゅんかんにナノクローンが爆発ばくはつした。


ドローンのブルー塗装とそう破片はへんが、あたりへ乱射らんしゃされるかように飛んでいく。


爆風ばくふうまれたジャズは、サービスとニコをかばいながらもき飛ばされてしまう。


「いてて……。サービスッ! ニコッ! ケガはないッ!?」


たおれたジャズがあわてて声をかけると、ニコがサービスの下敷したじきになりながらふるえる手をあげていた。


どうやら前のときと同じように、ニコがクッションわりになって彼女を守ったようだ。


ジャズはそんな電気ひつじやさしくでると、こんなときでも目を覚まさないサービスの顔を見て安心していた。


「この子ったら……こんなときによく寝てられるわね」


そう声をかけると、晴れ始めた爆風の中から人影ひとかげが見え出していた。


ジャズはきっとミックスが助けてくれたのだと思っていた。


彼女はもうちょっとスマートにやれないのかと、ミックスに文句もんくの一つでもいってやろうと立ち上がると――。


「やっと見つけた……。神の領域りょういきおか根源こんげん……」


そこには、見覚みおぼえのないトレンチコート姿すがたの少女が立っていた。

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