#92

「うわぁぁぁッ死ぬぅぅぅ! 誰か止めてくれぇぇぇッ!」


「わぁぁぁすごいすごいっ!」


恐怖きょうふ絶叫ぜっきょうしているミックスのとなりで、サービスは歓喜かんきの声をあげていた。


二人が今っているのは子どもようのジェットコースターだ。


可愛かわいらしいひつじをあしらった外観がいかんもので、ミックスたちのほかには子連れの大人たちが乗っている。


ミックスたちは、昨日きのうジャズがサービスと約束やくそくした遊園地ゆうえんちへと来ていた。


天気は今日も雨だったが、さいわいなことにバイオニクス共和国きょうわこくには屋内おくないあそべるアミューズメント施設しせつも多い。


さらに街中まちなかにあるので、ミックスたちの住む区画くかくからでもバスで行ける距離きょりだ。


今日は開園時かいえんじから来ている彼らは、朝からいろいろなアトラクションを楽しんでいた。


「つぎはあれのりたい!」


サービスは初めて来たアミューズメント施設に大はしゃぎだ。


それはジャズやニコも同じだったようで、サービスに負けじと楽しそうにしている。


ジャズは軍人とはいってもまだ十五歳の少女。


ニコは再起動さいきどうされたばかりのロボットだ。


そんな電気でんき仕掛じか仔羊こひつじはもちろん、ジャズのいたストリング帝国ていこく遊園地ゆうえんちなどないのだからはしゃいでしまうのもしょうがない。


「コーヒーカップか、いいわね。ほらミックス、いつまでもへばってないでつぎに行くわよ」


「……もうちょっとだけ休ませてよぉ」


だが、ミックスだけはちがった。


彼は何度なんど後輩こうはいのウェディング、担任たんにん教師きょうしのアミノを共にこのアミューズメント施設へ来たことがあったが、どうも乗り物全般ぜんぱん苦手にがいらしい。


それでもミックスも一緒いっしょでないといやだというサービスのために、彼はやむをなく付き合っていた。


すでに朝から数時間アトラクションに乗りっぱなしだったためか、ミックスはグッタリとつかれきってしまっている。


「まったくだらしないわね、たかが乗り物ぐらいで」


「うぅ……面目めんぼくないです」


さすがにこれ以上はまずいと思ったのか。


ジャズはサービスに声をかけ、少し早いが昼食ちゅうしょくをとろうと声をかけた。


サービスは少し残念ざんねんそうにしていたが。


顔色かおいろが悪いミックスを見ると、先に食事しょくじをすることを受け入れる。


サービスの許可きょかた彼らはフードコートへと向かう。


そこにはならんだテーブルや椅子いすがあり、夏休みというのもあってか親子連れが多く、大変にぎわっている様子だ。


その先には、店員であるドローンがメニューひょうを持って立っていた。


おくにあるのは調理用ちょうりよう機材きざいだろう。


ジャズがその調理用機材を見て口を開く。


「へぇ、オートデッシュって共和国きょうわこくにもあるんだ」


彼女がいったオートデッシュとは、大昔おおむかしからあるストリング帝国でつくられた調理用の機械きかいだ。


本体にカードリッジをはめみ、後は食べたい料理のスイッチを押せば、カロリー計算けいさんされたものが出てくる。


帝国ではどの家庭かていにもあるポピュラーな電化でんか製品せいひんの一つである。


ジャズが料理をろくに作れないのは、このオートデッシュのせいともいえる。


ストリング帝国では、基本的きほんてきに生活のすべてがオートメーションしているのだ。


それからミックスたちは、売店ばいてんで人数分のソフトドリンクとホットドック、チキンバスケット、たこ焼きなどの購入こうにゅう


テーブルにいて食事を始める。


「うそ……おいしい……」


チキンバスケットのフライドポテトを口したジャズがつぶやくようにいった。


彼女がおどろいた理由りゆうは、見てわかるとおりそのあじである。


ストリング帝国のオートデッシュは、栄養えいようバランス重視じゅうしで料理が作られるため、正直しょうじき味にかんしてはお粗末そまつなのだ。


ジャズが味音痴おんちなのもその影響えいきょうだった。


しかし、この売店のオートデッシュはまるで人が作ったかのような味がある。


ジャズはそのことにおどろきがかくせず、つい口にしてしまったのだ。


「うん、でも、みっくすがつくったほうがおいしい」


「ハハハ、ありがとうサービス」


サービスも味に満足まんぞくしているようだったが。


どうやら彼女はミックスの作る料理のほうが好きなようだ。


それを聞き、ジャズもサービスと同じことを思っていたが。


彼女はミックスにそのことを言えず、だまったまま目の前のジャンクフードを食べだす。


「うん? あれジャズ。なんかおこってない?」


「別に……怒ってないわよ」


ジャズの態度たいどに、不思議ふしぎそうにしているミックス。


ニコはそんな二人を見るとメェーと小さくためいきをついた。


きっと素直すなおになれないジャズとにぶいミックスを見てあきれているのだろう。


そんな電気羊を見たサービスは、事情じじょうをよくわかっていないのだろうが、笑いながらニコの真似まねをしてため息をついた。

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