#89

それからアイスランディック·グレイは、白衣はくいの男に引き続きサービスを監視かんしするようにいうと通話つうわを切る。


彼がいる場所ばしょはどこかの会議室かいぎしつだろうか。


っ黒な円卓えんたくがあり、ならべられた椅子いすには、連絡れんらくを取っていた男と同じ白衣姿すがたの男女が無表情むひょうじょうすわっている。


もちろんアイスランディックも白衣姿だ。


彼はかなりの高齢こうれいだが、座っている者たちの誰よりも快活かいかつに動き、その口角こうかつをあげていた。


その場で小さくスキップをし、鼻歌はなうたを口ずさみながらうれしそうにしている。


老人であるとは思えないほどの無邪気むじゃきさだ。


「ほう……ほうほう。ほうほうほう~♪」


まるで鳥綱ちょうこうフクロウもくフクロウフクロウぞく鳥類ちょうるいき声のようなものを口からはっしし、まどから雨雲あまぐもおおわれた空をながはじめた。


そのときの彼の顔は先ほどと同じく楽しそうだ。


「ほうほう。これはとし甲斐がいもなくこころおどってしまうね。なあ、君たちもそうだろう?」


アイスランディックにたずねられた椅子に座っていた男女は、何も答えずにただコクッとうなづいている。


それを見た彼は、さらに口角こうかくを上げてその大きな目をギョロギョロと動かしていた。


「ルーザーリアクターが動き出したことで、それに呼応こおうして天空神てんくうしんまで干渉かんしょうしてきたッ! 人工物じんこうぶつ自我じが持つ刺激しげきくわえて科学かがくでは説明せつめいできないちから観測かんそくできるとはッ! これは分析ぶんせきできる者を総動員そうどういんして観察かんさつおこわなければいけないなッ!」


興奮こうふん状態じょうたいのアイスランディックは空に向かってまくし立てる。


いとおしそうに表情をとろけさせ、までこいする乙女おとめにでもなってしまったかのようだ。


悲願ひがんであった神をえるちから


かつて世界を滅亡めつぼうさせようとしたコンピューターが持つエネルギー。


自分はまさにそのいきに近づいている。


アイスランディックはそう思うとき出る高揚感こうようかんおさえることなどできなかった。


バイオニクス共和国きょうわこくのためだとか、人々の生活がより良くなることだとかは、彼にとってどうでもいいのだ。


それはあくまで自分の目的をかなえるためのおもての顔でしかない。


アイスランディックはただ科学かがくでは解明かいめいできないコンピュータークロエの力にこいがれている。


それはこの共和国に住む科学者たちの多くがそうであるようだ。


「それではまずは戦闘せんとうデータから調しらべるとしようか。諸君しょくん、ラムズヘッド君からもらったナノクローンがまだあっただろう。あれはまだ使えるかね?」


白衣姿の男女は先ほどと同じように何も言わずにうなづく。


彼らの返事を受け取ったアイスランディックは、早速さっそくサービスのもとへエレクトロハーモニー社製しゃせいの戦闘用ドローン――ナノクローンを向かわせるようにげた。

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