#90

――ジャズは突然とつぜんサービスへとおそいかかった警備けいびドローンのことで、監視員バックミンスターから事情じじょう聴取ちょうしゅを受けていた。


今彼女は現場げんばとなった研究けんきゅう施設しせつにわで、監視員バックミンスター副隊長ふくたいちょうであるエヌエーと向き合っている。


「ではあなたは、このドローンがあの子に向かっていったっていうのね?」


ほかの隊員から警備ドローンの状態じょうたい確認かくにんしてもらったエヌエーは、とく異常いじょうのなかったことをジャズにつたえてからたずねた。


かれたジャズのほうは、少し不満ふまんそうな顔をしている。


「はい、この警備ドローンはあきらかに彼女をねらってました」


「うーん、でも、どこも異常がないんだよねぇ」


「あたしがいっていることをうたがうんですか?」


べつに疑っているわけじゃないんだけど。ほら共和国きょうわこくにあるドローンって、購入者こうにゅうしゃ以外いがいから通信つうしん命令めいれいを受けないようにされてるから」


エヌエーのいうとおり――。


バイオニクス共和国にあるドローンすべては、外部がいぶからハッキングして操作そうさできないように処置しょちされている。


もしジャズのいうことが本当なら、サービスを狙ったのは目の前にある研究施設の人間ということになるのだが。


どうもその動機どうきがわからない。


何故ならばサービスは、この研究施設は何の関係かんけいもないのだから。


彼女がこの施設のテストチルドレンでないことは、すでに知っているエヌエーには、一体何の目的があって幼女――サービスを襲ったのかが理解りかいできないでいた。


つたえていることが信用しんようしてもらえないと思ったジャズは、エヌエーのことをにらみつけていた。


自分の言葉にうそがないことは、施設に設置せっちされているの監視かんしカメラの映像えいぞうを見ればわかるはずだと。


ジャズは声を荒げてエヌエーにいう。


「でも、そのときの映像が消えちゃってるんだよね」


「そんなことがあるんですか?」


「うん、たぶんだけど。ここかほかの施設の実験じっけんでね。最近さいきんよく監視カメラの映像が一瞬いっしゅんだけ途切とぎれちゃうことがあるんだよね」


「なッ、そんなの大問題だいもんだいじゃないですか!」


「とりあえず、ここはあたしにまかせて、あの子を落ち着かせてあげたほうがいいと思うよ」


ジャズがエヌエーにってかかろうとしたとき。


サービスは何かにおびえているのか、その身をふるわせてミックスの体にしがみついていた。


ミックスはそんな彼女に、先ほど目をはなしてしまったことをあやまりながら、そのびしょれの体をタオルでいている。


必死ひっしに謝っているミックスを見たジャズは、自分の責任せきにんでもあると思い、自分のくちびるんでいた。


(ちがう……。あいつだけのせいじゃない……。あたしも迂闊うかつだった……。あいつなら濡れたサービスのためにタオルを借りに行くことくらいやりそうだったのに……)


にぎっていたこぶしに、さらにちからめるジャズ。


そんな彼女を見たエヌエーは、自分のポケットからエレクトロフォンを取り出す。


そして、ミックスとサービスのほうを見て、表情ひょうじょう強張こわばらせているジャズの前へと差し出した。


連絡れんらくさき交換こうかんしておこうか。何かあったらあなたにも知らせられるように」


「……いいんですか? あたしはただ学生ですよ。それなのに監視員バックミンスターの副隊長であるあなたが、そこまでする理由りゆうがあるんですか?」


「イヤなら無理むりにとはいわないけどぉ」


「くッ、わかりました……。おねがいしますッ!」


ジャズには、どうして監視員バックミンスターの人間がここまでしてくれるのかが不可解ふかかいだったが、エヌエーの厚意こういを受け取ることにした。


そして連絡先を交換し、彼女にあたまを下げたジャズは、足早あしばやにミックスたちのもとへ向かう。


「ごめんよぉ、ホントにごめんサービス……。一人にしてごめんよぉ……」


今にも泣き出しそうにいうミックス。


そしてニコも彼と同じように、サービスの体に自分のゆたかなをこすりつけて謝っているようだ。


震えていたサービスだったが、そんなミックスとニコのおかげか、その顔に笑みがもどっていた。


彼らのことをなぐめるように、だいじょうぶだよぉ、とその頭をでている。


「もう、あんたらは……」


ジャズはそんなミックスたちを見て、強張っていた体がゆるんでいくのを感じていた。


何故警備ドローンがサービスを狙っていたのか――。


今は考えてもしょうがない。


これからは彼女から目を離さなければ良いだけだ。


「ほら雨もよわまってきたし、今のうちに行きましょう」


サービスは、ジャズのその言葉を聞くと彼女にいきなり抱きついた。


そして、コクッとうれしそうにうなづくのだった。

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