#82

とりあえず幼女ようじょのことをサービスと呼ぶことにしたミックスとジャズは、アミノに連絡れんらくし、監視員バックミンスターのほうで迷子まいご捜索そうさく願いが出ていないかを確認かくにんしてもらう。


監視員バックミンスターとは、彼らが住むバイオニクス共和国きょうわこく治安ちあん維持いじする組織そしきだ。


ミックスの担任たんにん教師きょうしであるアミノは、監視員バックミンスターに友人がいるらしく、早速さっそく調べてもらうことになった。


《じゃあ、なにかわかり次第しだい連絡をしますね》


「お願いします。すみませんね。いつも先生にばかりたよっちゃって」


《そういう相手のことを考える気持ちは大事ですが。子どもはそんなこと気にせずに大人を頼りなさい》


冗談じょうだんじりでたしなめるアミノ。


ミックスは彼女にれいをいって通話つうわを切ると、何やらジャズがサービスの前であわただしくしていることに気が付く。


どうやらジャズがサービスに話しかけると、何故か彼女がおびえてしまうようだ。


今もニコのゆたかなおおわれた体のかげにその身をかくしながら、ジャズをじっと見ながらふるえている。


「う~ん、なんでこわがっちゃうんだろ? この子って人見知りなのかな?」


「ジャズは顔が怖いからね」


「うん!? ちょっとッ! それってどういう意味いみよ!」


ジャズが声を張り上げると、サービスはつかんでいたニコの体をさらに強く抱きしめ、その身のふるえをはげしくする。


ちから一杯いっぱい抱きしめられたせいか、ニコがくるしそうにく。


そして、サービスはそのまま走り出してしまった。


「あぁッ! どうしたのよきゅうにッ!?」


「それよりも今は止めなきゃッ!」


あわてて彼女を追いかけるジャズとミックスだったが、サービスは少し走っただけでつまづき、ころんでしまう。


ジャズがけ寄って彼女の体を見てみると、さいわいなことにニコがクッション代わりになったため、大きな怪我けがはなさそうだ。


「もう、いきなり走ったりしたらあぶないじゃないの」


注意ちゅういを受けたサービスはミックスのうしろへとまわって彼の足を掴み、また震え出す。


彼女は、まるで街であばれる怪獣かいじゅうでも見るような目でジャズのことを見ている。


どうやらこの黒髪の幼女はジャズのことが苦手にがてのようだ。


「こらこら、そんな大声出したらまた逃げちゃうだろ」


「うぅ、たしかにあんたのいうとおりかも……」


「はい、そんな怖い顔はやめて笑いましょう、ジャズお姉さん」


「あんたねぇ……」


ミックスは面白おもしがっているのか、ジャズをからかうように声をかけた。


ジャズは彼の態度たいど表情ひょうじょう強張こわばらせると――。


「ひぃッ! うぅ……うわぁぁぁんッ!」


サービスが泣き出してしまった。


「ほら見ろ、ジャズのせいで泣いちゃったじゃないか!」


「あんた、あたしのせいにするつもりッ!? いやそれよりも今はこの子をなんとかしなきゃッ!」


ミックスとジャズはあたふたしながら泣き止むように声をかけ続け、なんとかサービスは泣き止んだ。


そんな三人のそばでは――。


先ほどサービスに力一杯抱きしめられ、さらに彼女の下敷したじきとなったニコが、たおれたままうめいていた。


泣き止んだサービスはそんなニコに飛びかかり、また同じように抱きしめる。


よほどニコのことが気に入ったのだろう。


苦しそうにしているというのに、おかまいなしだ。


「ニコ……悪いが今は我慢がまんしてくれ。家に帰ったら姉さんからおしえてもらった特製とくせいハンバーグをごちそうするから」


ミックスはサービスに抱かれて鳴いているニコを見て合掌がっしょう


この泣き虫の幼女を落ち着かせるためだと、呻く電気でんき仕掛じか仔羊こひつじおがんでいた。


「でもこれじゃ宿題しゅくだい無理むりね」


「うん……そのことには途中とちゅうから気が付いてたよ……。でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


かわいた笑みを浮かべるミックス。


そんな彼に今度はジャズが合掌した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る