#69

「ちょっと、どこへいくつもりなんだよッ!?」


ミックスが立ち上がったクリーンに声をかけた。


彼女はニュースを見て理解りかいしたのだろう。


現在げんざい中心街ちゅうしんがいあばれているのは、自分の兄であるブレイク·ベルサウンドだということを。


当然とうぜんそれはミックスも同じだった。


このバイオニクス共和国きょうわこくに、黒い日本刀にほんとうを持った少年などそうそういるはずもない。


彼はクリーンがどこへいくつもりなのかをわかっていながらたずねたのだ。


「……兄を止めに行きます」


つぶやくように返事へんじをしたクリーン。


ミックスはそんな彼女の前に立ちはだかる。


そして、そんな怪我けがでどうしようというのだと、必死ひっしでクリーンを説得せっとくはじめた。


「大丈夫だって! そのうち監視員バックミンスターが来てあいつを止めてくれるよ!」


監視員バックミンスターとは、共和国きょうわこく治安ちあん維持いじする組織そしきである。


こないだの図書館としょかんのときとはちがい、これだけ問題もんだいになっているのだ。


きっと今ごろ騒ぎを聞き付けた監視員バックミンスター出動しゅつどうしているはずだと。


ミックスの言葉を聞いたクリーンは、つめたい表情ひょうじょうのまま彼のよことおぎようとする。


監視員バックミンスターは来ませんよ」


「はッ? どうしてだよ!? こんな状況じょうきょうなのにッ!?」


理解りかいできないといったミックスに、クリーンは言葉を続けた。


監視員バックミンスターが来ない理由りゆうは、共和国上層部じょうそうぶの一人――。


ラムブリオン·グレイという男がうらで手を引いているため、たとえ監視員バックミンスター隊員たいいんが動きたくとも、勝手かって真似まねをするなと指示しじが出ているはずだからだと。


「そんなのおかしいじゃないか!? このままじゃ人がころされるかもしれないんだよッ!?」


「私にも、ラムブリオン·グレイにどういう意図いとがあるのかはわかりません。ですが、前にもたようなことがあったとき……あの男は兄があばれることをよろこんでいるようでした……」


クリーンがそういうとそばにいた小雪リトル スノーが白いかたなへと変化へんかしていき、彼女の手へとにぎられた。


その表情ひょうじょうけわしく、クリーンの覚悟かくごを感じさせるものだ。


だが、まだ兄ブレイクにやられたきずいたむのだろう、


その顔を引きつらせている。


ミックスはそんな彼女をなんとか止めようとした。


そんな怪我けがであのブレイクに勝てるのか?


またやられるだけじゃないかと、先ほど止めたときと同じような言葉を続けた。


「……見ていてください」


クリーンはそう言葉を返すと、小雪リトル スノーかまえる。


前に見たものとはちがう、誰でもやるようなシンプルな構えだ。


「ベルサウンド流、モード小雪リトル スノー雪命殺ゆきめいさつ……」


その言葉の後に、彼女に握られた小雪リトル スノーすさまじいいきおいでかがやはじめた。


ミックスはそのひかりの輝きにおどろいたが、よく見ると小雪リトル スノーとは対照的たいしょうてきにクリーンの顔からは生気せいきがなくなっていることに気か付く。


「前は覚悟が足りずに不覚ふかくをとりましたが。このわざならば兄を止めることができます」


「ちょっと待ってよ……。その技……ヤバいんじゃないのか……?」


説明せつめいしている時間はありません。まこともうわけございませんが、私は行かせていただきます」


「だから待てっていってるだろ!」


ミックスは、今にも倒れそうなクリーンの体をささえるようにつかんだ。

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