#68

ねむっていたブレイクは目をました。


仮眠かみんでもしていたのだろう、時刻じこくはまだが落ちたばかりだった。


くるしそうなブレイクは、真っ青であせまみれの顔を右手でおおう。


「クソッたれ、あの女がおふくろのことなんかいうからだ……」


ブレイクのベットのそばには黒い犬――小鉄リトル スティールがいて、心配しんぱいそうにその身をふるわせている。


どうやら彼が悪い夢をみたことに気が付いているようだ。


ブレイクはそんな小鉄リトル スティールはなれるようにいうと、冷蔵庫れいぞうこを開けてペットボトルの緑茶りょくちゃを口にする。


一気いっきに飲みすと、きゅうき気がし、飲んだばかりの緑茶をすべて嘔吐おうとしてしまう。


「オエェェェッ……。ゴッホ、ゴホゴホ……。ダメだ……止まらねぇ……止まらねぇんだよッ!」


ブレイクはの中にあるものをすべて吐き出すと、部屋にあるものを破壊はかいはじめた。


テーブルや椅子いすり飛ばし、かべに向かってこぶしを打ち付ける。


小鉄リトル スティールがそんなブレイクに寄りうと、彼は不気味ぶきみな笑みをかべてその黒い毛で覆われた体をつかんだ。


「ビャッハハ! フギャアアアハッハアアッ! 止まらねぇんなら、止まるまでころしやるよぉぉぉッ!」


――そのころクリーンは、病院びょういん待合室まちあいしつにあるソファーにすわりながら、ぼんやりと外をながめていた。


彼女のかたわらには白い犬小雪リトル スノー電気でんき仕掛じか仔羊こひつじニコが仲良なかよく寄りかかり合って眠っている。


すでにジャズ、ウェディング、アミノは帰っていたが、今夜はニコを小雪リトル スノーの傍においてあげてほしいと言われ、クリーンは二匹と一緒いっしょにいた。


待合室には立体りったい映像えいぞうによるテレビ――子供向けのクイズ番組ばんぐみうつし出されていたが、クリーンに興味きょうみなさそうだ。


「部屋にもどらないの?」


そこへミックスがやってきて、彼女のそばにあった自動じどう販売機はんばいきに持っていたエレクトロフォンをかざした。


ガランという音が続けてり、ミックスは購入こうにゅうした緑茶のペットボトルをクリーンへとわたし、自分は炭酸たんさん飲料水いんりょうすいに口をつける。


受け取ったクリーンはコクッとあたまを下げると、なんだかこのまま眠ってしまうのがもったいない気がするのだと返事へんじをした。


それを聞いたミックスは、笑みを浮かべたと思ったらきゅうにしかめっつらとなる。


「明日はウェディングがケーキを作って来るっていってたから、そんなこといっていられなくなるよ」


「……? それはどういう意味いみでしょうか?」


「いや、ケーキはいいんだけど……。ウェディングは巨大きょだいなホールを持ってくるからさ。とても一人じゃ食べ切れないんだよ」


「それは楽しみですね。私、ホールケーキを一人で食べたことないからうれしいです」


目を輝かせていうクリーン。


ミックスは彼女とはじめて会ったときのことを思い出していた。


ファミリーレストランでうどんはちが、山のようにみ上げられていたことを。


「クリーンの本気ほんきはこんなもんじゃありませんよッ! この子はこんなレストランくらい余裕よゆう閉店へいてんにできますッ!」


その記憶きおくの中で、嬉しそうに叫ぶウェディングの姿すがたかんでいた。


「そういえばクリーンはたくさん食べる子だったよね……。そりゃホールケーキくらい楽勝らくしょうかぁ」


「はい」


そんな満面まんめんの笑みを見せるクリーンを見たミックスは、顔を引きつらせつつもほころんでいた。


二人が誰もいない夜の待合室で笑い合っていると、当然先ほどまで映っていたテレビ番組が切り替わる。


「番組を中断ちゅうだんして、これより臨時りんじニュースをお知らせします」


ミックスとクリーンは何気なくテレビの映像へと目をやっていたが、その内容を知ると驚愕きょうがくした。


現在げんざい、バイオニクス共和国きょうわこく中心街ちゅうしんがいに、真っ黒な日本刀にほんとうを持った少年が無差別むさべつ通行人つうこうにんおそっているらしい。


今のところ死者ししゃは出ていないようだが、けい重傷者じゅうしょうしゃはかなりのかずのようだ。


兄様にいさま……」


クリーンはそうつぶやくと、眠っていた小雪リトル スノーを起こしてソファーから立ち上がる。

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