#67

けしてちかづいてはいけないよ。


あの家はのろわれているんだ。



――ブレイクとクリーンがまだ祖母とらしていたころ


彼らの地域ちいきでは、二人のことを悪霊あくりょくに取りつかれた子だと認識にんしきされていた。


それは彼らの母親であるクリア·ベルサウンドが、コンピューターの暴走ぼうそうを止める戦いで死亡しぼうした後のことである。


クリアの死を知らされた二人には、それぞれに白と黒の二匹の犬が、つねについてまわるようになった。


ブレイクには黒い犬――小鉄リトル スティール


クリーンには白い犬――小雪リトル スノー


その二匹の犬は、クリアが生前せいぜんに受けた産土神うぶすながみ加護かごによる妖犬ようけんだった。


二人の祖母はリトルたちのことをクリアからの形見かたみとし、ブレイクとクリーンと共に大事にそだてていたが、彼女らの住む地域ではきらわれた。


島国しまぐにということもあって、元々もともと保守的ほしゅてき国柄くにがらもあったのだろう。


何よりもすでにこの国では産土神はわすれられ、新たな宗教しゅうきょうが広まっていたのもあった。


ブレイクとクリーンは忌み子として幼少期ようしょうきさびしくごした。


それでも彼らの祖母が生きていた頃はまだよかった。


たとえ友人ができなくとも家族かぞく仲良なかよく暮らしていたのだ。


しかし祖母がくなると、もはや二人に居場所いばしょはなくなってしまった。


二人の母が世界をすくった英雄えいゆうということは知られていたが、それでも平和な世界において、そのちからはただおそろしいものにしかうつらない。


それでも国からの多少たしょう援助えんじょはあり、くるしくともなんとか二人で生活していけるだけの金銭きんせんわたされていた。


ブレイクもクリーンも、亡き母クリアが世界を救った英雄の一人であることをほこりに思っていた。


それは祖母からずっとそう聞かされてきたのもあったのだろう。


ブレイクとクリーンはそんな母に見習みならい、文武ぶんぶ両道りょうどうきわめんと日々精進しょうじんする。


他人たにんからの執拗しつよういやがらせにも負けず、つね成績せいせきも良く、きたえた剣のうでもけして暴力ぼうりょくに使ったりはしなかった。


だが、そんなある日に事件じけんが起きた。


ブレイクがいつもよりもおそく家に帰ると、彼らの家がほのおつつまれていたのだ。


その火事かじにより、祖母との思い出と共に、父ブレイブと母クリアの遺品いひんはすべて焼きくされてしまった。


さいわい中にいたクリーンは、小雪リトル スノーによって助け出され、軽度けいど火傷やけどんだが。


警察けいさつはろくに犯人はんにん探しもせず、事件はクリーンの不注意ふちゅういということにされる。


このことにより、ブレイクの中で何かが変わっていった。


それから彼らにはさらなる悲劇ひげきおとずれる。


ある日に、ストリング帝国ていこくと戦っていた反帝国組織そしきバイオナンバーが名を変え、現在げんざいバイオニクス共和国きょうわこく名乗なの軍隊ぐんたいが大軍を引き連れ、彼らの国へとやって来た。


「私は共和国のラムブリオン·グレイである。小さな島国に住む者たちよ。こちらの要求ようきゅうを飲まなければ、我々われわれ武力ぶりょく行使こうしさない覚悟かくごだ」


共和国の要求は、ヴィンテージであるクリア·ベルサウンドの血縁者けつえんしゃ身柄みがらをこちらへとわたせというものだった。


島国のトップに立つ者たちは、当然とうぜんブレイクとクリーンをらえるよう国中に指示しじを出し、二人は逃亡者とうぼうしゃへとならざるえなかった。


だが、当時とうじまだ十代前半である子どもの彼らがいつまでも逃げ切れるはずもなく。


二人は捕らえられ、バイオニクス共和国へとおくられることなる。


たのむ、クリーンは見逃みのがしてやってくれ! 連中に渡すのは俺だけでいいだろッ!」


ブレイクは悲願ひがんした。


せめていもうとだけでもこの国においてやってくれないかと。


だが、そのねがいもむなしくクリーンは彼の目の前で気をうしなわされ、厳重げんじゅう拘束こうそくされた。


島国のトップたちは、そんな二人に向かっていう。


バイオニクス共和国が何を考えてベルサウンドの血縁者を欲しがっているかはわからないが、きっと人体じんたい実験じっけんでもするつもりなのだろう。


ちょうどいい、こちらも厄介やっかいばらいできるというものだ。


英雄とはいえ、あのクリア·ベルサウンドは、歯車の街ホイールウェイという街で人斬りだったそうじゃないか。


そんな恐ろしい血筋ちすじの者を我々の国においておけるものか。


そんな罵倒ばとうにもた言葉をきかけていた。


ブレイクは彼らの言葉を聞いて絶望ぜつぼうした。


どんなに迫害はくがいされようがじっとえ、祖母のいう人間の善性ぜんせいというものを彼は信じようとしていた。


だが、この世界にはそんなものは存在そんざいしなかった。


「おふくろは……こんなヤツらを助けるために……こんなクソみてぇな世界を救うために死んだのか……」


祖母は母ののこした呪いを抱いて死んだ。


自分はそうなってたまるか。


妹をそうさせてなるものか。


ブレイクはこのときにはじめて人を斬った。


真っ黒なかたな小鉄リトル スティールを抜き、自分が住んでいた国の人間すべて斬り殺す。


そのかずはおよそ三十万人。


彼は生まれてから最初さいしょ行使こうしした暴力で、自分の住んでいた国をほろぼしてしまった。


「ビャッハハ! フギャアアアハッハアアっ! 皆殺みなごろしだッ! 全員殺しやるよぉぉぉッ!」


バイオニクス共和国のラムブリオン·グレイは、その様子ようすをモニターで見て笑みをかべていた。


「たった一人で国を滅亡めつぼうさせたのか。すさまじい……予想よそう以上だ。さすがヴィンテージの子だな」


その後、ブレイクはラムブリオンと契約けんやくをし、クリーンとリトルたちを連れて共和国へとうつり住むこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る