#18

アリアは、フラフラと立ち上がって来るミックスへつめたい視線しせんおくる。


「わかりませんね。あなたがいくらジャズちゃんのおもいにこたえようとしたところで、所詮しょせん帝国ていこく共和国きょうわこくというかべは変わることはない。いずれ彼女はあなたの前から消えるのですよ」


「ジャズが国へ帰るからって、そんなの関係かんけいないッ!」


ミックスはしっかりと立ち上がり、アリアへ向かってさけんだ。


「わからないんならおしえてあげるよ。俺はジャズのために頑張がんばるって、そう決めたんだ! ジャズが自分の国へ帰ったって、国同士くにどうしなかが悪いからって、おれとジャズの関係かんけいが変わるもんかッ!」


アリアがはなったまわりのせいで血をながしながらも、ミックスは少しもひるんでいはいなかった。


むしろ先ほどよりも覇気はきしている。


「それよりも、なんで話し合わないんだよ!? キミと、ジャズと、そのヘルキャットって子で、もっとおたがいの気持ちをつたえ合えば、こんなふうになやむこともなかっただろ!? それを勝手かってに決めて……。なにが友人をえらべないだよ……。キミらが決めたことにジャズの気持ちが入ってないじゃないかッ!?」


「だから……先ほど言いましたよね……。あなたになにがわかるんですかッ!?」


ミックスの言葉にえられなくなったのか、アリアは彼に飛びかかり、馬乗うまりになってなぐりつけだした。


それはもう逆上ぎゃくじょうした子どもが、ただいかりにまかせて相手へ暴力ぼうりょくるっているのと変わらない。


ミックスがこれ以上なにも言えないようにしているだけだった。


くいを打ち付けるように繰り出されていくアリアのこぶしが、ミックスの意識いしきうばおうと雨のように振りそそいでいく。


すでに抵抗ていこうをしていない彼へ、アリアは攻撃こうげきを続けていた。


その様子ようすを見るに、彼女は余程よほどいたいところをかれたのだろうと思わせた。


このままではミックスがなぐり殺されてしまうと思われたが――。


「アリア、そこまでよッ!」


突然とつぜんアリアの身体がつかまれ、そのままほうり投げられる。


受け身を取った彼女がそこで見た人物とは――。


「ジャ、ジャズちゃんッ!?」


サイドテールの少女――ジャズ·スクワイアだった。


身構みがまえ、臨戦りんせん態勢たいせいへと入ったアリアは声を張り上げる。


「どうしてあなたがここにいるんですかッ!? あのアパートにいたはずじゃッ!?」


「なにかあったときのために、そいつに発信機はっしんきをつけておいたのよ。顔を見たそいつのことを、あんたたちが放っておかないと思ってね」


アリアは表情ひょうじょうゆがめていた。


自分のミスでジャズに見つかってしまった。


この場で戦うにしても逃げるにしても、正直しょうじきジャズと一対一いちたいいちではどちらもむずかしい。


そう考えていたアリアだったが、ジャズは彼女へ向かってそっと手をばす。


「アリア……。そいつの言う通りとは言わないけど。あたしたち……もっと話し合わないといけなかったとは思うんだ……」


ジャズはおだやかな笑みを浮かべ、手を伸ばしたまま近づいて来る。


「あたしも悪かったよ。二人のことけていたみたい態度たいどを取っちゃって。だから、もう一度いちど話し合おう」


「ジャズちゃん……」


アリアが出された手を見ていると、二人のあいだ電磁波でんじははなたれた。


あわてて避けたジャズが電磁波が放たれた方向ほうこうへ目をやると、そこには小柄こがらな少女ヘルキャットと、シャープな体型たいけいをした男が立っていた。


「少年一人始末しまつするのに、ずいぶんと時間がかかりぎていると思ったが。まさかジャズと接触せっしょくしていたとはな」


「ヘルキャット!? それと……ど、どうしてあなたがッ!?」


ジャズはあらわれた男を前にして、そのおどろきをかくせないようだった。

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