#16

アリアは、自分たちがストリング帝国ていこくから来たことや、バイオニクス共和国きょうわこく戦争せんそうをするための火種ひだねを作るのが目的もくてきだということをミックスへとつたえた。


そのために明日の夜――。


バイオニクス共和国の象徴しょうちょうとされる管制塔かんせいとう――。


アーティフィシャルタワーを爆発ばくはつすることまで話した。


「なんで……」


ミックスは、何故アリアがそんなことを話したのかがわからなかった。


もし自分が共和国きょうわこく治安ちあん維持いじする組織そしき――監視員バックミンスターへその話を伝えれば、彼女たちの作戦さくせん失敗しっぱいすることが目に見えているというのに。


ミックスが不可解ふかかいな顔をしてたずねると――。


「あなたに信用しんようしてもらうためです」


アリアはつめたい眼差まなざしを向けたまま言葉を続けた。


アーティフィシャルタワーを確実かくじつ破壊はかいするために、時限じげん装置そうちなどではなく、自分たちの身体からだ爆弾ばくだんを巻き付けておこなう。


小型こがた爆弾ばくだんではあるが、その被害ひがいはタワー周辺しゅうへんにもおよぶだろう。


だから、ジャズが自分たちを止めに来たとなれば、彼女まで爆発に巻き込まれてしまう。


――と、アリアはそう言った後にうつむいた。


ミックスはそんな彼女に向かって歩き出した。


「そんなジャズが大事だいじなら一緒いっしょに国へ帰りなよ。それで仲直なかなおりしてハッピーエンドだ」


ちかづかないでください。……いや、もしかして私をこの場で取り押さえるつもりなんですか?」


「そのとおり!」


そうこたえたミックスは、アリアへと飛びかかった。


今日の彼女があの電磁波でんじははなじゅう――インストガンを持っていなかったのもあったのだろう。


ならば男である自分のほうがちからでは上のはず。


ミックスは、ここで彼女をつかまえ、ジャズのところへと連れていこうとしているのだ。


だがアリアは、飛びかかってきたミックスのうでつかんで、そのまま一本いっぽん背負ぜおい。


彼のいきおいを利用りようし、かた地面じめんへとたたきつける。


素手すでならば勝てるとお思いですか? 残念ざんねんですが。たとえ女とはいえ訓練くんれんされた軍人ぐんじんが、ただの学生に負けるはずがないでしょう?」


アリアに見下みおろされていたミックスは、ころがって距離きょりを取り、立ち上がる。


そして、ふたたびアリアと向かい合った。


「もう一度いちどいいます。私のおねがいを聞いてください」


口を開いたアリアは、またミックスにジャズを止めるようにたのんでいた。


だが、ミックスには彼女の頼みを聞くつもりはない。


今はどうやってアリアを止めるかを考えている。


そして、考えても結局けっきょくは向かって行くしかないと思い、彼女の前へと走り出す。


「なにがあなたをそこまでさせるのでしょう?」


それでもミックスの手は、アリアにれることさえできなかった。


先ほどと同じようにちゅうい、地面にたおされてしまう。


彼女の言うとお基礎きそ戦闘せんとう能力のうりょくがありぎるのだ。


ただ重量物じゅうりょうぶつを持ち上げるだけならば、ミックスのほうが腕力わんりょくはあるかもしれない。


しかし、アリアにはそれきしてもあま格闘かくとう技術ぎじゅつがある。


おそらくそれはアリアの相棒あいぼうであるヘルキャット、さらにはジャズにもある能力だろう。


ただの取っ組み合いでは、素人しろうとであるミックスに勝ち目はない。


「……もういいでしょう。あなたがわざわざいたい思いをする必要ひつようはないのです。ここは私の言うことを聞いてください」


「がッ!?」


アリアはしずかにそう言い、ミックスのむねみつける。


「なんで……」


再び彼女が見下ろすかたちとなったが、それでもミックスは立ち上がろうと身体を起こそうとしていた。


「なんでおれを殺さないんだ? キミの相方は顔を見られたからって殺そうとしていたのに……」


くるしそうにたずねるミックス。


アリアはそんな彼を見ても、その無表情むひょうじょうくずすことはなかった。

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