#15

その後、ミックスは途中とちゅうまで一緒いっしょ登校とうこうしていたウェディングとわかれ、一人道を歩いていた。


かがや日差ひざしとさわやかなかぜびていたせいか、わるかった調子ちょうしもすっかり良くなっている。


ミックスは内心ないしんで、人はやはり太陽たいようの下で生きるのが合っているんだなと、両手りょうてを空へと上げてその身体からだをほぐしていた。


そのとき――。


突然とつぜんミックスの背中せなかかた金属きんぞくのようなものがきつけられた。


「動かないで」


続いて耳元みみもとで女の声が聞こえる。


ミックスはビクビクふるえながら口を開いた。


自分は今手持てもちのお金がすくないから、期待きたいにはそぐわないと思うと。


ミックスに金属を突きつけている女は、さらにそれを押し当てるとしずかな声で返事へんじをする。


「いいから、どこか人気ひとけのないところへ行きましょう。あなたに話があるの」


その言葉を聞いたミックスは、女の言う通りにし、ちかくにあった工事中こうじちゅう建物たてものへと入って行った。


中には、電源でんげんがオフにされている工事用ドローンや、き出しの鉄筋てっきんコンクリートが見える。


天井てんじょうかべにはビニールせいのシートがかけてあり、中の様子ようすは外から見えないようになっていた。


女はまわりに誰もいないことを確認かくにんすると、ミックスへ自分とはなれてこちらを向くようにと指示しじを出した。


言うとおりにしたミックスがその女の姿すがたを見る。


「キミはたしか、昨日きのうの夜にいた……」


「アリア……アリア·ブリッツともうします」


ミックスをここへ誘導ゆうどうした女の正体しょうたいは、昨夜さくや電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置そうち――ふる突撃銃とつげきじゅうを思わせる外観がいかんをしたインストガンを持っていた少女だった。


アリアと名乗なのった長身ちょうしんの少女は、手に持っていた金属をその場に投げてた。


どうやら彼女がミックスに突きつけていたものは、ナイフや銃ではなくただのてつかたまりだったようだ。


誰もいないせいか、街を飛んでいるカラスのき声にじって、金属が地面じめんに落ちたカランという音がひびいていた。


単刀たんとう直入ちょくにゅうに訊きます」


アリアがつめたい目を向けてそう言ってきた。


ミックスは思わず身構みがまえたが、彼女は気にせずに言葉を続ける。


「ジャズちゃんは無事ぶじですか?」


「はッ? ジャ、ジャズちゃん……?」


ミックスは、アリアのジャズにたいする呼び方に違和感いわかんおぼえていた。


しかし、そういえばジャズと彼女たちは友人だという話を聞いていたので、おかしくもないかと思いなおす。


「ジャズならもう元気だよ。朝からり切って料理りょうり作ってくれたし」


「そうですか。あなたは余程よほど彼女に気に入られたんですね。あの子は好きな相手あいてにしか食事を作りませんから」


「それはそれで不幸ふこう連鎖れんさが始まるね……」


「そうですね。ジャズちゃんの作るものは、けして美味おいしいものではないですから」


アリアはミックスの言葉を聞いたクスッと上品じょうひんに笑った。


まるでからかわれた親友しんゆうの話を聞いて笑みをかべるような、そんな笑顔だった。


だが、すぐに表情ひょうじょうもどしたアリアは、ふたたび冷たい視線しせんをミックスへと向ける。


「実はこうやってあなたを連れ出したのは、あることをおねがいしようと思ったからです」


「お願い? 電磁波でとうとした相手にお願いって……。ジャズやキミの国にはモラルってものがないのかな……」


「あなたにはジャズちゃんへ、私たちのことをあきらめるように言ってほしいのです」


「人の話を聞かないってのも文化ぶんかちがいなのかな……」


アリアは、目の前であきれているミックスのことなど気にせずに、そのお願いについてこまかく話し出した。

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