#11

その後――。


外へと出たミックスへアミノから連絡れんらくがあり、ジャズの治療ちりょうが終わったことがげられた。


そして、部屋へともどったミックスのことを、アミノはすさまじい形相ぎょうそうで待っていた。


「ミックスくん。授業中じゅぎょうちゅうにジャガーくんがいっていた女の子とは、この少女のことですね?」


「いやだなぁ先生……。そんなこわい顔しちゃって……」


「では、この子いったい何者なにものなのか。それとどうしてこんなひどいケガをっているのか。全部事情じじょうを話してもらいましょうか」


両腕りょううでを組んで仁王におう立ちをしているアミノ。


あきらかにおこっている彼女を見たミックスはあせが止まらず、思わずジャズのほうへと目を向ける。


ジャズはアミノの持つジャージへと着替きがええており、ろくにしてなさそうなぺったんこの布団ふとんねむっている。


そんな彼女のよこでは、ニコもうように寝ていた。


いい気なもんだと思いながら、ミックスは冷や汗をいている顔でにこやかに笑う。


「いや~じつはその子はおれいもうとりょうあそびに来てたんですよ」


「ほう、妹さんですか。それにしては彼女のほうが大人おとなびて見えますね」


「そうそう、そうなんです! ほら、俺たちくらいの年頃としごろって女の子のほうが早く大人になるっていうじゃないですか」


「それじゃ、この酷い火傷やけどはなんですか?」


「そ、それはですね……。一緒いっしょ料理りょうりを作っていたらサラダあぶらで火が付いちゃって……」


ミックスがそうこたえると、アミノはプルプルと身体からだふるわせた。


そんな彼女の顔をのぞむと、その目にはなみだがたまっている。


「せ、先生……?」


「うわぁぁぁん! なんでそんなうそをつくんですか!? やっぱりミックスくんは先生のことがきらいなんですね!? 信頼しんらいしてくれないんですね!?」


ダムにためられた水がいきおいよくはなたれたときのように――。


アミノの目からは洪水こうずいのように涙がながれ出し、その場で泣きわめき出してしまった。


「うわあ、泣かないでッ! 嫌いじゃないから! 俺先生のこと大好きだから! もうかみさまよりも信頼してますってッ!」


あわてで彼女が泣き止むように言葉をかけたミックスだったが、もうあなの開いてしまったダムの水が止まることはなかった。


喚く声と慰めようとする声がうるさかったのか、ジャズがウトウトと身体をこす。


ニコも彼女と同じように目をましていた。


そしてジャズは目覚めざめてすぐに、ミックスへとつめたい視線しせんを向けた。


「いくら年上としうえだからって、女を泣かすなんて最低さいてい……」


「その元凶げんきょうになっているやつがなに俺を軽蔑けいべつしてるんだよッ!」


ジャズへ食ってかったミックスのことを、ニコも彼女と同じように冷たい視線で見ていた。


その後もミックスはごめんなさいとアミノにあやまり続け、なんとか泣き止んだ。


そしてミックスは、落ち着いたアミノに向かってそっと手をげる。


「先生、きたいことがあるんですけど」


ミックスはアミノへ――。


彼女が事情じじょうを知りたい理由りゆうは、学校の理事会りじかいや、国の治安ちあん維持いじする組織そしき――監視員バックミンスター報告ほうこくするためだからなのかとたずねた。


訊ねられたアミノはコクッとうなづいた。


先ほど見たニュースで、街中でボヤさわぎがあった知った。


そんなときに火傷をした少女をかかえた生徒せいとがうちに来たのだ。


どう考えても二人が事件じけんかかわっているとしか思えないと――。


アミノは声をって言う。


「ミックスくんたちがどんな事件にまれているのかはわかりませんが。あなたが先生の生徒である以上、ほうっておくわけにはいきません。私には監視員バックミンスターはたらいている友人もいますし、かならちからになれます」


顔をけるミックスにアミノはちかづくと、じっと彼の目を見て言葉を続けた。


「ミックスくんは、何か危険きけんなことにくびっ込もうとしているのでしょう? そんなこと……あなたの態度たいどを見ればわかりますよ」


「アミノ先生にかくしごとはできないか……」


ミックスはぐ見つめてくるアミノの目を見返した。


そして、自分の思っていることを口にする。


「でも、ごめんなさい。俺、先生を巻き込みたくないんです。それと、この子は絶対ぜったいわるい人間じゃありません。それだけはしんじてください」


彼の言葉を聞いたアミノは、すっと背を向けるとそのまま玄関げんかんのほうへと歩き出した。


そんな彼女へミックスが声をかけると――。


「ミックスくんらしい言葉です。……ですが、そんなことで先生は誤魔化ごまかされませんよ。とりあえず、続きは何か食べながら話しましょう。二人もそこの羊ちゃんもおなかいているでしょう? ちょっと買い出しに行ってきますから部屋で待っていてください」


そういって外へと出かけていった。


しずまり返った部屋で、ジャズがミックスへ声をかける。


「あの人、い人だね。それにあんたのこと、ずいぶんと信頼しているみたい」


「ああ、うれしいことにそうなんだよね……」


ミックスは、微笑ほほえみながらいってきた彼女へ、笑顔えがおを向けてそうこたえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る