【幽霊部室】鶴の昔話、亀は今を足掻く(お題:鶴亀算)

「……というわけで。なんか、狐につままれたような解決でした」

「それはそれは。惑わされまして災難でした、ってことにしておけばいいか?」

「そうしておいてください」

「部活の活動実態や正確な人数がわからない、か。あの学校も相変わらずとんでもねぇな……」

「あ、そっか。マスターも明庭堂みょうていどうでしたよね」

「私もだよーっ」

「……そうでしたね」

「あ、今どうやって合格うかったんだって思ったでしょ!」

恋向こなたも案外、頭いいんだよ。……よかったんだよ」

ぃくんもひどい!」


「学校は相変わらず混沌としてるけど……那鶴なつるは変わったもんだな」

「変わった?」

「昔話するならっ、私もする!」

「恋向はまだ掃除終わってないだろ!」

「うえー。幸路ゆきじくんはこんな照れ隠し塩対応マンになっちゃダメだよ?」

「誰が照れ隠しじゃ」

「ははは……那鶴さんの言う通りか」

「あいつ何言ってたって!?」

「なんでもないです」


「で……那鶴の昔話だな」

「……那鶴さんは、昔からこういう相談をされるタイプだったんですか?」

「相談をされるタイプでもあり、首を突っ込むタイプでもある。俺とは真逆だよ」

「マスターと真逆。……確かに、緑茶とコーヒーで真逆?」

「お前は那鶴に似てるな。変なところに引っかかって、大真面目に、それも勝手に納得してる」

「え、そうスか?」

「そうだよ~。意外と似た者同士、なのかな?」

「……恋向さんまで」

「これからもそう、かはわからんけどな。人はいつでも、いくらでも変わる」

「変わる。……今の那鶴さんは、変わった後、ってこと?」

「あぁ。あいつは昔からトラブルに首を突っ込んで、悩み事を請け負ってな……その全部を、力業で解決していた」

「……力業で? まさか全部の部室に踏み込んで……?」

「いやいや、流石にもう少し賢かった。活動記録や鍵の出入りを洗って、カメラとかも持ち出して……何を思いつくかわからんが、どうあれアイディアひとつ通すために力を振るっていた、って感じ。剛腕ってわけじゃないが、もう少し無茶だったぞ」

「……それは、知恵者とは……微妙に言えないような」

「だろう?」

「だからさっきのお話聞いて、ちょっと驚いちゃった。今の那鶴ちゃんは言葉一つで解決するんだ、って」

「方程式ほど綺麗ではないが、総当たりほどパワープレイでもない。その中間……鶴亀算みたいなやつだったよ、昔は」

「……那鶴だけに?」

「それ言って怒られたことあったなぁ」

「あったね~」


「……鶴亀算を、力業で、か」

「那鶴は正しい。正しくて輝かしくて、理想的だったよ。ただ不器用だったんだ」

「私にとっては、正しくて優しくて可愛くて面白くて、最高の友達。だけど、繊細なところがあるから……幸路くんが支えてくれると嬉しいな」

「……那鶴さんを、俺が支える。大それた話ですね」

「まぁ、お前はまず自分のことからか。細くて綺麗で弱い二本足か、重くても分厚く強く泳ぐ四本足か……何にせよてめぇの脚で立つことだ」

「俺の脚……?」

「あぁ、また飛ぃくんが小難しいこと言い出しちゃった……」

「恋向さん?」

「あんまり気にしないでいいからね。さっきは私もああ言っちゃったけど……うん、幸路くん、気楽でいいからね? 那鶴ちゃんとお茶したり、うちに遊びに来たり、勿論クラスの人と遊んでもいいし、部活も、イベントも! 何してもいいんだから!」

「そうだ。お前まずは学校の友達をな、那鶴以外でな。鶴亀算以前に、まずは頭数をだな……」

「うぐぐ……」

「……飛ぃくんも変わったね。お説教がおじさんっぽい。でも好き愛してる」

「おう有難うよ同い年なの忘れんじゃねぇぞ恋向!」


「歳、か……」

「……幸路くん? 失礼な想像、した?」

「いや、そういうわけじゃ。ただ……お二人と那鶴さんが、昔から知り合いだとして……その『力業時代』って小学何年生だよ、と思って」

「くく……まぁ、指折り数えて考えてみろ」

「鶴亀算みたいに、ね!」

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1時間執筆トレーニング小説ルーム 高梨蒼 @A01_Takanash1

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