第120話 side スキル屋のヤピン
俺はヤピンだ。
教会直営のスキル屋で店長をやっている者だ。
まぁ、『スキル授受』スキルなんて、使い途のないスキルだが、教会では話は違う。
教会はスキル関連の仕事が多く舞い込む。
特にスキルを譲ったり、譲られたり。
ただ、教会は布施は受け取れるがスキルを買い取ることまでは出来ない。
そこで抜け道としてスキル屋っていうものを作った。
もちろん教会直営としているが、スキル屋は一応独立した店だ。
まぁ、そのあたりはどうでもいいだろう。
俺の夢はとにかく教会の中枢に入り込むことだ。
金もたくさんもらえるし、何よりも……
いや、なんでもないな。
ただ、そのためには『スキル授受』の熟練度を上げなくちゃならねぇ。
俺のは☆3だ。
ここまで本当に頑張った。
それもロスティとか言う奴のおかげだ。
ハッキリ言ってスキル屋は客が来ない。
スキルはどれも高価だ。
もちろん金持ちが来ることはあるが、そのときは教会が仕事を奪っていきやがる。
貧乏人は絶対に来ないからな。
そうなると俺のスキルを使う機会は本当に少ない。
だが、ロスティは違った。
スキル屋なんて人生に一度来れば、いいところだが何度も足を運んでくれる。
しかも、その度にスキルを買い込んでいく。
一度に億単位の金を払っていくこともある。
だからといって、教会に仕事を任せないで俺にやらせてくれる。
こんな変わった客は他にいないだろう。
「ロスティ。本当にこんなに買って大丈夫なのか?」
「お金は心配要らないよ」
どこから金が湧いてくるっていうんだ?
最近、冒険者を始めたらしいが、そんなに稼げる仕事なのか?
稼げるのは、ほんのひと握りって聞いたぞ?
しかも、ロスティの変わっているところは……
「なんだって、こんなゴミスキルを買っていくんだ?」
「なんでって……ゴミスキルじゃないから」
何を言っていってやがるんだ?
スキル屋に来るスキルは大抵はゴミスキルって言われるようなやつだ。
使えないスキルを持ったがゆえに、身を持ち崩し、借金返済のために手放すやつが多い。
まぁ、スキルを無くした者の末路は酷いものだから、手放さずに……。
とにかく、有益なスキルは流通しない。
そんなスキルをアホみたいに買っていく。
「俺としては有り難いけどな……そういえば……」
ふと思い出したことがある。
台帳には載せていないが、ロスティにぴったりのスキルがあった。
「ロスティ。このスキルはどうだ? 『スキル受領』だ」
ゴミスキルの中のゴミスキル。
しかし、ロスティなら食いつくんじゃないかって思った。
案の定、食いついてきやがった。
「本当にあるのか? 間違いない?」
「あ、ああ。入ってきたばかりだからな。どうする? 買うのか?」
本当にこんなスキルを集めてどうするつもりなんだ?
もしかして、スキル屋でも開くつもりか?
馬鹿らしい。
しかし、ロスティのおかげで、俺の『スキル授受』スキルの熟練度はかなり上がっていることだろう。
そんな矢先に教会から呼び出しがあった。
まさかと思ったな。
だが、用件は全く別の話だった。
「ヤピン。お前はロスティとかいう若者を知っているな?」
あん?
ここでなんでロスティの名前が出てくるんだ?
まさか、何かやらかしやがったのか?
だったら……
「さあ、知りませんね」
ロスティには恩がある。
せめて、口裏合わせるくらいの時間は稼ぎたいところだ。
「私に嘘は通じない。お前がロスティと仲良く話しているところを目撃したという話は聞いている」
面倒だ。
とはいえ、正直に言うつもりはねぇ。
「なぜ、無言なのだ? ……なるほど。お前は何かを勘違いしているようだな」
どういうことだ?
「教会はロスティという若者に興味を持っている。だが、冒険者ギルドがロスティを離す気がないようだ。ロスティもそのつもりみたいだ」
だからなんだというのだ。
誰がどこに所属しようと自由だ。
ましてや教会にとやかく……まさか。
「そうだ。教会はロスティを取り込むつもりだ。だが、その任務は難しい。そこでお前に白羽の矢が立ったというわけだ。もう、分かるな?」
俺にどうしろと?
ロスティを教会に勧誘するのか?
一緒にお祈りをしましょうってか?
「たわけたことを。よいか? これは教会から任務だ。失敗は許されない」
「あのよ。俺はスキル屋の店長だ。教会の任務なんて知ったことではないね」
俺から仕事を奪い続けてきた教会に尻尾を振ってたまるか。
俺は実力で這い上がってやるんだ。
「ほお。だが、お前は教会に入ることを願い出ているそうではないか。どうだ? この任務が成功すれば、お前にはそれなりの席を用意してやる。それほど教会はロスティを欲しているのだ。どうだ?」
なん、だと!?
いつのまにロスティがそこまでの大物になっていたんだ?
俺が初めてあった頃は、それは小汚い奴だと思っていたのに……
本当にいつの間に大きくなっちまったんだ?
「それは本当なのか? 本当にロスティの勧誘に成功したら、俺は教会に入れるのか?」
「無論だ。それにお前の店舗は稼ぎがいいらしいな。それだけでも上の覚えもいい。まぁ、安心してくれて構わないぞ」
ほお。
と言っても、ほとんどロスティが買っただけだけどな。
「分かった。だが、念を押すが……」
「くどい!! さっさと決めろ」
「ああ。やらせてもらうぜ」
ロスティには悪いとは思わねぇ。
俺はただ勧誘するだけだ。
だが、ロスティはサンゼロから姿を消していた。
どこを探してもいねぇ。
どうなってやがるんだ?
「おい、ロスティがいねぇぞ。これじゃあ、仕事に」
「我々の情報を甘く見るな。どうやら、王都にいるらしい」
王都に!?
なんだって、急に。
ん? なんだ、その指は?
「お前も行け」
「ふざけるな。俺の店はどうなるんだよ!」
「代わりのものなんていくらでもいる」
店が無かったら、俺のスキルを伸ばせなくなっちまう。
それだけはゴメンだ。
「そういうなら、この話はここでお終いだ。俺は店を出るつもりはねぇ」
「ならば、王都の店舗に移れ。それで良かろう?」
王都の店舗?
それって一番大きな店ってことか?
何気に出世じゃねぇか。
「ああ。文句はねぇ」
「さっさと行け」
俺は王都に向かった。
「待っていろよ。王都のスキル屋!!」
ロスティのことはすっかり忘れてしまっていた……再びロスティと会うまで。
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