第110話 御前
王との話はまだ続いた。
「なかなか面白い話が聞けた。私としてもミーチャには、このままロスティ君と共に行動をしてもらおうと思っている。それでいいな? ミーチャ」
「うん。ありがとう。お父様」
再び虚空を見つめる王。
さてと、話を大方終わりかな?
そろそろ料理の方に戻らせて……。
そういう訳にはいかないですね。
「ロスティ君とミーチャの話はこれで終わりだが……もう一人のユグーノの民との話が終わっていない。だが、その前にミーチャのために涙を流してくれたのであろう? これからもミーチャの良き友として接してくれないだろうか? 王としてではなく、父としての願いだ」
「はい! ミーチャさんは私の憧れの人で、人生の師とも言える人です。とても友などと言える間柄ではないと思っていますが……ミーチャさんの側を離れることはありません!」
言い切ったな。
これでルーナの一人旅は随分と遠のいたことになるな。
「ほお。それはなかなか面白い間柄だな。ならば、聞くが……ユグーノではミーチャの外見をどう見る?」
「ユグーノの民の伝承では……ミーチャさんはユグドラシルの巫女ではないかと思います。出来れば、長老に会っていただきたいと思っています」
王は腕を組み、考え事をしているようで馬車の中はゆっくりとした時間が流れていた。
「やはりそうか。しかし、今はダメだな。ミーチャをユグーノの民と会わせるのは危険しかないからな。それで? ユグーノの民が王国で何をしているか、聞いてもいいか?」
ルーナはここまでの事情を説明し、ルカ達の事も包み隠さなかった。
「なるほど。教会が獣人にそのような扱いを……それが事実だとすれば、由々しき問題だ。王家も教会に発言するのは難しいが……そのようなことを放置すれば、大きな争乱の火種になりかねないな。ふむ……」
少し気になることがあった。
「王はユグーノの民に詳しいのですか?」
「ん? まぁ、それなりだな。だが、ユグーノの民は我が王国の建国に大きく関わることでな、この話はまた今度にしよう。とりあえず、今はこの辺でいいだろう。さて……」
王から言葉はひどく事務的な内容だった。
ギルマスからも説明があったように、ダンジョン攻略者には王宮に士官することが出来る。
一般的に王宮に士官するのは貴族またはそれに類するものだ。
その例外がダンジョン攻略者だ。
まぁ、特殊技能者を採用するようなものだ。
戦闘系スキルを持つ者は近衛騎士団に配属することが多い。
魔法系スキルを持つ者は王宮魔法師団に配属することが多い。
パーティーとして話が来るが、王宮に入れば個々人になってしまう。
そのため、それからの再結成は難しく、冒険者に戻る者は殆どいないらしい。
「そういえば、ギルマスと話している時に、問題があったような話が聞こえてきましたけど、あれは?」
「ふむ。知っての通り、S級パーティーといっても全員が強いわけでもないだろ。大抵は超人的な一人がいて、他のメンバーがサポートというのが多いな?」
確かに多いな。
「しかし、この話はパーティーに来る。つまり、強いものも弱いものも扱いは同じ。強いものならば、難なくこなしてしまう仕事も、弱いものには命を掛ける必要があることもある」
ああ、なんとなく分かってきた。
S級パーティー出身と言うだけで、色眼鏡で見られてしまう。
実力が仕事に反映されにくく、潰される者も少なくないという話だ。
「それゆえ、所属先を決めるにしてもまずは実力を測ってから決めることになった。適材適所を徹底することで、王国軍の質はかなり向上したのだ」
なるほど。なかなかおもしろい話だな。
「それで? どうするつもりだ? 王宮に士官するか?」
「いいえ。お断りします。今はまだ自分の実力を高める必要があると思っていますから。しばらくは冒険者のままで」
「それがいいだろうな。身元がバレることはないだろうが……王宮は敵味方が入り交じる場所だ。まだ、近づかないほうが良いだろう」
断ったことに若干、罪悪感を感じたが、王は気にする様子がなくてホッとした。
「でも僕達は王都には向かおうと思っています。スキル玉の内容を知るために」
「面白そうな話だな。だが、いいのか? 悠長にしているが、お前たちの偽装の魔法は壊れかけていると思うが? ミーチャは気付いているのだろう?」
「やっぱり……指輪の効力がそろそろ切れる頃合いかも知れないわね。王都よりも先に魔道具の調達を急いだほうが良いかも知れないわね」
魔道具の調達って言っても、そんなに簡単に手に入るものなのか?
たしか、この指輪はかなりの高級品……というか、国宝に匹敵するものなんだろ?
「確かにその指輪は貴重だ。しかし、作れないわけではあるまい。まずはヘスリオの街に向かうと良い。そこは魔道具工房が立ち並ぶ王国唯一の場所だ。ハッキリと言えば、そこで調達できなければ、王国では不可能と思ったほうが良い」
ふと、魔道具が手に入らなかったら? と思ったがミーチャがいれば……
「なんで私を見ているのよ。無理よ? いくら熟練度が上がったからと言っても四六時中、変装の魔法を使い続けるのは」
やはり魔道具調達は必ず成し遂げなくてはならないようだな。
次の目的地は……ヘスリオの街。
錬金術師と金細工師が数多くいる王国では異色の土地。
曲者も多くいると言うが……一体、どんな街なんだろうか?
「話は終わっていないぞ。ロスティ君。君たちは商業ギルドによる妨害を受けたらしいね。そのことを詳しく教えてくれないか?」
何でも知っているな……この話はギルド内で処理される話だったはず。
冒険者ギルドも一枚岩というわけではないみたいだ。
「僕達からよりもギルマスの方が詳しいと思いますが……」
「冒険者ギルドにはそれなりの自治権を認めているからな。教えてはくれないだろう。ロスティ君は当事者という話ではないか。聞かせてくれないか?」
話をしたことで冒険者ギルドに対する裏切りとかにならないよな?
少し心配を感じながらも、知っている限りのことを話した。
「なるほど。どうも王国内が騒がしくなってきているようだな。調査をしようにも、なかなか捗らず、情報が集まらないのだ。これからも情報を得たら、なんでもいい。教えてくれないだろうか?」
王国の王といえども、なんか頼りなく感じてしまう。
いや、それだけ冒険者、商業ギルドの力が強いということか。
「分かりました」
それから連絡の方法などを決め、ようやく馬車から開放されるときが来た。
「ロスティ君。最後に……」
まだあるのか。
「私のことは義父と呼ぶように。プライベートの時だけでも構わないから」
それだけを言うと馬車は移動を開始した。
「なんだか、疲れたわね。飲みたい気分でもないし、帰りましょうか」
「そういえば、ロスティさんも巫女候補だって言うのを忘れてました。ドワーフがそう言っていました」
なんだ、それ。
僕が巫女?
巫女? 巫女って女性しかなれないんじゃないのか?
「私に言われても……まぁ、ユグドラシルに愛されているお二方なら、あり得る話ですよ! それでは、私は食堂に戻りますね」
そういってルーナは駆け足でギルドに向かっていった。
「そういえば、私達って親公認になってのよね?」
「まぁ、そうなるのかな?」
「どうでもいいけどね。でも、なんだか、ちょっと嬉しいかも」
「そうだね」
ミーチャは僕の手を握り、一緒に宿に帰ることにした。
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