第88話 パーティー離脱

 ギルマスの執務室を離れ、ドロップ品を換金してくれる場所に向かうことにした。


「ねぇ、ロスティ。今回のドロップ品はガルーダと山分けをするんでしょ? だったら、ガルーダを連れてきたほうが良いんじゃない?」


 確かにその通りだ。


 ダンジョンで得られたドロップ品はすべて等分と決めてある。


 ここでガルーダを抜きに金を受け取れば、あとでトラブルになるかも知れない。


「それに今回のクエストに不参加の理由も聞かないといけないわね。ガルーダのおかげでかなり助かってた部分があるから、抜けられるとそれだけで戦力は落ちてしまうわ」


 ガルーダの不参加は本当に頭が痛い。


 一緒に王都にまで付いてくると言っていたのに……。


 どういう心境の変化なんだ?


 とりあえず、宿に向かってみよう。


 ガルーダは僕達と一緒の宿に泊まっている。


 ただ、ガルーダはパーティーでいざこざがあったみたいだから、もしかしたらいないかもと不安に思ったが杞憂だったみたいだ。


 ドアをノックすると、しばらくして現れたのがガルーダだった。


 なんで、裸なんだ?


「おお。小僧か……その、なんだ……ちょっと済まないが、ギルドの食堂で待っていてくれないか? すぐに向かうからな」


 たしかに裸では話しづらいのだろう。


 それにしても後ろから、ガルーダに戻ってくるように催促する声がずっと聞こえてくるが……。


 パーティーと仲違いしたというのは嘘だったのか?


 随分と仲良さそうに感じるけど……


「じゃあ、待っているからな。それとギルドの換金が終わったみたいだから、金を受け取る準備だけしていてくれよ」


「……ああ。分かった」


 申し訳無さそうな顔をしたガルーダは部屋の中に顔を引っ込めた。


「ミーチャ。行こうか……」


 どうもガルーダはパーティーの中に居場所を見つけることができたのかも知れない。


 それがクエスト不参加の理由だとしたら、ガルーダを責めることは出来ない。


 元々、そういう話だったんだ。


 ダンジョンだって、ガルーダと偶々出会って、一緒に行動をしただけに過ぎない。


 ギルドの食堂に着くと、しばらくしてガルーダが姿を現した。


 さすがにパンツは履いてきてくれたので、ホッとした。


「済まなかったな。こんなところに呼び出してしまって……用は分かっている。緊急クエストの一件であろう……本当に済まない。期待をさせてしまっただろうが、俺は元のパーティーに戻ろうと思う」


 やはりな。覚悟はしていたが、残念な結果だ。


 ただ、一点訂正するとしたら……期待はまったくしていない。


 というか、ガルーダをパーティーに加えることに最初からあまり乗り気にはなれなかった。


 あの「むう……」がどうしても許せない。


 とはいえ、そんな事を言ってはさすがのガルーダも傷つくかも知れないな。


「良かったな。ガルーダはやっぱり元のパーティーの方がいいと思う」


「そう言ってくれるか。小僧。やはり、俺の見込んだ男だけのことはあるな」


 なんだろう、背中がぞわっとした。


「それで? 何が原因だったんだ? ガルーダは戦力としては申し分ないし、パーティーから離れる理由なんて思いつかないんだけど?」


 この際だから、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「うむ……俺のパーティーは皆、パートナーなのだ」


 どういうこと?


 つまり……そういうことか?


 ガルーダがそっちの道であることは分かっていたけど、まさかパーティー全員とは……。


 だけど、そんな告白をされても理由が全く分からないんだけど。


「原因はな……小僧なのだ」


「へ? 僕が?」


 全く意味が分からない。


 ミーチャも分からないよね?


 あれ? しきりに頷いているけど……え? なに? 分かっているの?


「嫉妬ね?」


 何をバカな……


「うむ。そうなのだ。最近、よく小僧と話していることが多かったであろう? それが、どうやら皆の心を傷付けていたようなのだ」


 ……分からない。


「小僧は意外とその方向は疎いのだな。女心……いや、男心と言ったほうがいいか。それは理解を深めておいたほうがいいぞ。例えば、ミーチャが知らない男と親しげに話していたら、小僧はどう思う?」


 ミーチャが……想像すると、心に棘が刺さるような感覚に襲われた。


「それが嫉妬だ」


 なるほど……分かるようで分からない。


 さっきからミーチャはしきりに頷いている。


 分かっていないのは、どうやら僕だけのようだ。


「でも安心して。私は他の男なんか興味ないわ。ロスティ一筋よ!!」


 ありがとう。どうやら、僕は嫉妬の心を燃やさないで済むようだ。


「小僧は本当にいいパートナーに巡り会えたな。俺も今のパーティーは本当に居心地のいい場所なのだ。だから、何度も謝る。本当に済まなかった」


「事情は分かったから、僕は全く気にしていないよ。まぁ、これからも分からない事があったら教えてくれると助かるよ……ああ、嫉妬されない範囲で」


 つい笑ってしまった。


 ガルーダも笑った。


 とりあえず、これでこの話は終わりだ。


「ふむ。小僧は本当にいい男だ。嬢ちゃん、しっかりと手綱を握っておけ。こんないい男はすぐに他のやつに取られるからな。小僧はなんだか、危なっかしいところがある」


「もちろんよ!!」


 どうやらミーチャとガルーダは変なところで意気投合したようだ。


 これで禍根はなさそうだな。


「さて、ガルーダ。そろそろ換金をしに行こうか」


「うむ。そのことだがな……俺は小僧のパーティーから離れた……いや、そもそもパーティーには入っていなかった」


 何を言っているんだ?


「だからな。俺の取り分は全部、小僧達がもらってくれ。これが俺のけじめでもある。一旦はパーティーを裏切った。その報いも受けねばならない。しかし、小僧達の期待も裏切った。だから、金は受け取れない」


「いや、しかし……」


 何度も説得したが、ガルーダは首を横に振るばかりだった。


「俺が抜ければ、戦力を補充せねばならぬだろう。スキルを手に入れるにせよ、冒険者を加えるにしろ、金はかかる。俺の取り分はそれに充ててくれ。それで良いだろ?」


 こう言われてしまうと……。


 ミーチャも納得しきってはいないが、受け入れることにしたようだ。


「分かった。でも本当に良いのか? ギルマスの言い方では、相当な額になっているらしいけど」


「いうな! 決心が鈍るではないか。俺は決めたのだ。受け取らないと。パーティーの奴らもそれに納得してくれている。極上オイルが欲しかったが……くっ……」


 葛藤が凄そうだ。


 極上オイルが何なのか分からないけど、どこかで手にすることがあったら、ガルーダにプレゼントをするのもいいかもしれないな。


「ガルーダ。とりあえず、ありがとう。ダンジョンでは本当に助かったよ」


「俺もだ。いい経験をさせてもらった。また、ダンジョンで会おう」


 最後に握手を交わし、僕達は別れた。


 これからは、再びミーチャと二人パーティーだ。


 ちなみにドロップ品の換金は物凄い額になった。


 白金貨15枚相当……つまり1億5000万トルグとなった。


 ガルーダ、これを知ったら地団駄を踏みそうだな……。

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