第85話 疑いの目

 ギルマスが目の前にいる。


 今回の冒険者失踪の顛末を報告するためだ。


「まずは感謝をしよう。お前たちが助け出さなければ、冒険者たちの命はかなり危険なものとなっていただろう。この礼はしっかりとさせてもらうつもりだ。それで、お前たちは再びダンジョンに行くつもりか?」


 この場にいるのは僕達だけだ。


「しばらくは休むつもりです。ダンジョンは相当疲れますから」


「そうか……まぁ、それもいいかもしれないな。ライバルとなる者もいなくなってしまったからな」


 ライバル? どういうことだ?


「聞いていないか。『ハングドルグ』はどうやらサンゼロの街を去ったようだ。今回の一件について、一応は報告を受けているから、止めることはしなかったが……あいつらが未踏破のダンジョンを諦めるなんて意外なものだな」


 そういえば、『ハングドルグ』の連中はダンジョン攻略が全てみたいなことを言っていたような気がする。


 ギルマスもそれを思ってのことなのだろう。


「私見で構わないが、今回の一件をどう見る?」


「正直に言えば、全く分かりません。ただ、『ハングドルグ』が関わっていると最初は思いました。出てくるタイミングからして、関与しているかと。それに、幻影に掛かっている時、ギガンテスとは違う気配があの階層にはあったんです」


「それが『ハングドルグ』だと?」


 僕は首を横に振ることしか出来なかった。


 実際に目にしたわけではない。


 それに心眼だって、完璧に身に着けたわけではない。


 気配を感じたのだって、ミーチャたちを関知しているかも知れないし、そもそもいなかったかも知れない。


 自信を持って言えることは何一つ無かった。


「そういえば、『白狼』はダンジョンから戻ってきているんですか?」


「まだだ。それも気がかりになっている。実は『ハングドルグ』からも『白狼』が関わっていると言ってきたのだ」


 僕にも同じようなことを言ってきていたな。


 確かに状況だけを見れば、『白狼』に疑いが向けられるのは可能だが……


「僕には『白狼」がこの一件に関わっているとは思えないです。彼女らは冒険者として立派な方達ですから」


「うむ。その気持ちは分かるが……身の潔白を証明してもらいたいが、ダンジョンから戻ってこない以上は、容疑を掛けざるを得ないのだ。もちろん『ハングドルグ』も、だが。まぁ、この辺りはギルドの問題。一冒険者のお前たちに聞かせる話ではなかったな」


 やはりギルドは『白狼』を疑っているのか。


 どうにかして、身の潔白を証明してほしいが……


 そうなると、もう一度ダンジョンに入って、『白狼』を探してみるか?


 あとでミーチャとガルーダに相談してみるか。


「とにかく、もう一度言うが、本当に助かった。ギルドを代表し、感謝をする。礼については、まあ、あとで伝えよう。それよりもダンジョンでは結構、ドロップ品を集めたのではないか? 換金をしてきたらどうだ?」


 それもそうだ。


 ダンジョンの醍醐味であるドロップ品の換金。


 今回の一件ですっかり忘れていたな。


 ギルマスの部屋を出てから、受付のあるフロアに向かった。


 換金はそのフロアの一角にある。


 一応、誰からも見られない場所にある。


 換金は誰もが興味のあるのことだけに、大金を受け取った冒険者が襲撃されるという事件もないわけではないらしい。


 もっとも、大金を得るだけの冒険者だ。


 返り討ちにする場合が多いらしいが。


 それはともかく、換金だ。


「おや。英雄様ではないですか」


 換金と書かれた場所に行くと、担当のギルド職員からそんな言葉が飛び出してきた。


 英雄? 何を言っているんだ?


「気付きませんか? ロスティ様とその御一行は今やサンゼロのギルドでは英雄になっているんですよ。かく言う、私も武勇伝を聞かされた時は感動したものです」


 ダンジョンから出てきて、まだ数時間しか立っていないのに、武勇伝なんてものがすでに広がっているのか…・・。


 なんとも、噂というものは早いものだな。


「それよりも換金を頼む」


「ええ、もちろんです。それでどのようなものでしょう?」


 『無限収納』を覗き込んでみると……。


「あの、量が凄いんですけど……ここで大丈夫ですか?」


「え? ええ。あっ、でしたら、この籠にお入れください。これで十分だと思いますから」


 籠か……。


 まぁいいか。


 『無限収納』からモンスターからのドロップ品を入れていく。


 籠には山盛りのドロップ品。


「確かにすごい量ですね。これは……スケルトンの骨ですか……実は、骨の相場がかなり安くなっているんですよ。大量でも査定はかなりお安いですね。もう少し、価値のあるものを持ってきて頂ければ、それなりの査定を出せたのですが……」


 ん? ああ……


「この籠はもう一つありますか? いや、十個は欲しいかな?」


 それからは職員の顔色が興奮で紅潮していった。


「ギルマスぅ!! 応援をお願いしまぁす!」


 あれ? 走っていなくなってしまった。


 どうするんの、これ?


 再び、ギルマス登場。


「まさか、こんなにすぐに会えるとは思ってもいなかったぞ。それにしても……よくも、これだけの量を……まぁ、有り難いことなんだが……本当に凄いな」


 査定はかなりの時間が必要ということで、三日という時間を言われた。


 とりあえず、三日間はお休みってことにしよう。


 換金場所を離れ、食堂に向かった。


 この時間ならば、空いているだろう。


 だが、甘かったようだ。


 僕達の評判はかなりのものみたいで、食堂に出向くと冒険者に取り囲まれ、武勇伝をせがまれることになった。


 もちろん、語るようなことは何もない。


 だとすれば……逃げるしかない。


「ロスティ。大変なことになってしまったわね」


「本当だよ。まさか、こんなことになるなんて。こんなことなら、ダンジョンの方がよっぽど落ち着けるよ」


「がははは。小僧もすっかり冒険者だな。だが、悪くはありまい? 皆から感謝されるのは」


 それはそうかもしれないけど……。


「食堂で飯を食えなかったのは残念だが、少なくとも三日間は休みなのだろう? だったら、俺は宿に戻らせてもらうぜ。俺もなんだかんだで疲れたからな。これからの事は、休みが終わった後にでも話そう」


 ガルーダとしばらくの別れだ。


 不思議と嬉しさがこみ上げてくる。


 いや、別にガルーダが嫌いってわけではないよ。


 ようやく、ミーチャと二人っきりになれるのが嬉しいんだ。


「ロスティ。どうしたの?」


「いや、なんか。二人っきりになるが久しぶりのような気がして。嬉しいと思ったんだ」


「すごい! 私も同じことを思っていたの! 折角だから、食材を買って二人で食事をしましょうよ。今日は私が作るわね。ロスティみたいな凄い料理は作れないだろうけど……負けていられないもの」


 だったら、『料理』スキルを譲ってもいいんだけど?


 あ、それは要らないのね。


 その夜は久しぶりにゆっくりとした時間を二人で過ごすことが出来た。

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