第77話 ドロップ品は誰の物?

 パーティの役割の確認をしよう。


 近接攻撃と壁役は僕だけだ。


 ミーチャは撹乱役。


 ガルーダは土魔法による攻撃と防御。


 バランスの良いパーティーといえるだろう。


 一階層目はひたすら坑道を歩くだけだった。


 モンスターは現れない。


「地下タイプはモンスターが出ないものなのかな?」


「それは違うぞ。小僧。よく見てみろ」


 薄暗い坑道の中で目を凝らすと、徐々に見えてくるものがあった。


「あれはスモールバッドっていうコウモリのモンスターだ。だが、やつらはこちらが弱っていなければ襲ってくることはない。一匹は弱いが、群れると厄介だ」


 そうはいっても、襲い掛かってこないんじゃあ、怖い存在ではないな。


「意外とこいつにやられている冒険者は多いんだぞ」


 それはどういうことだ?


 弱っていなければ、襲い掛かってこない……そうか、なるほど。


「分かったようだな。こいつらが襲いかかるのは弱ったやつ……つまりは下の階層から戻って来た奴を襲うんだ」


 なんて狡猾なモンスターなんだ。


「まぁ、それでも殺されるようなことはないからな。ちょいと血を吸われるくらいだ。見て分かるように、小さいモンスターだからな」


 どっちなんだ? 怖いのか怖くないのか……ガルーダの説明は混乱してしまうな。


「気にするなってことだ。俺が言いたいのは、ダンジョンに入ったらモンスターはどこにでもいると思えってことだ」


 なるほど……。


 そう言っているうちに、下の階層に続く階段を見つけた。


 普通、鉱山にこういった階段はない。


 これだけでも異質な感じがしてくるものだ。


 階段は螺旋状になっていて、冷たい空気が次第に暖かさを増していく。


「なっ……」


 そこには春を感じさせる平原が広がっていた。


「ここは鉱山の中だよな?」


「これがダンジョンってやつだ。大体だが、五から十階層ごとに環境が変わると思ったほうがいい。モンスターも環境が変わると違うのが出てくると覚えておいたほうがいいな。ほら。さっそく、来たぞ」


 フォレストドラゴンの群れだった。


 外縁に飛び出していったのはこの階層のモンスターだったのか。


「ミーチャ。頼む!!」


「任せて!!」


 掛け声で、ミーチャの幻影魔法が発動する。


 僕の影が無数に現れるのだ。


 一時ほどよりはマシになった。しっかりと戦っている姿をしている僕がたくさんいる。


 これならば、フォレストドラゴンの意識を逸らすことが出来るはず。


「ガルーダ。土壁を。ミーチャと自分を守ってくれ!」


「承知! むう! ……」


 十分だ。


 あとは木聖剣を振り回すだけだ。


 フォレストドラゴンの弱点は頭部だ。


 ここに一打を加えれば、大抵は絶命する。


 難なく、フォレストドラゴンの群れを倒した。


 ドロップされるアイテムを無限収納に収めていく。


「小僧。さっきから気になっていたが、ドロップ品をどこに入れているんだ?」


 特に隠す必要はないと思い、『無限収納』スキルを教えた。


「まさかとは思ったが……しかし、そんなに勢い良く入れても大丈夫なのか? これから最深部に向けていくほど、貴重なドロップ品が出てくるのだ。余白は多いほうが良いのではないか?」


 やはり『無限収納』は使えないスキルというのは常識に近いみたいだ。


 ポーション瓶二十本というのが一つの目安のようなものになっている。


 群れが落としていったアイテムだけでも、それを大きく超える。


 余白が無くなるのではないかと心配するのも無理はない。


「僕にもどれほど入るか分からないんだ。むしろ、たくさん入れてみて限界を知りたいくらいなんだ」


 ガルーダの呆然とした顔を初めて見た気がする。


「信じられんな。しかし、実際に入っているところを見ると嘘とも思えない。俺でもポーション二十本が限界だろう。……頼みがあるんだが……オイルを預かってくれないか? 実はオイルがあるせいで、ドロップ品を諦めていたのだ」


 なんだろう……オイルを預かることにすごく抵抗がある。


「オイルではなくて、ドロップ品を預かるよ。それとも僕では信用できないか?」


 ドロップ品は基本的には所持していた人のものだ。


 そのため、パーティーを組んでいてもお互いに預け合うということは滅多にしない。


 もちろん、信じあっているもの同士であれば、荷物役という役割を与えられる者がいるらしいが。


 それでもトラブルが尽きないようだ。


 それほどドロップ品というのは価値があるものだ。


 ちなみにフォレストドラゴンがドロップした物は爪や皮、肉だ。


 一つの群れを倒すだけでも百万トルグ程度にはなるだろう。


 倒すことが難しい相手だが、倒することが出来れば、冒険者は本当に美味しい商売とも言える。


「いや、小僧は信用できる。それゆえ、オイルを預けるのだ。小僧ならば持ち逃げすることはあるまいと」


 ……オイルなんて盗んでどうしろと?


 ダメだ……ガルーダの感覚を理解することは無理だ。


「まぁ、小僧が言うのなら、ドロップ品を預かってもらうことにしよう。共同で倒した場合の持ち分だが……」


 これはパーティー毎に決める場合があるが、大抵のパーティーはギルドが定めたルールに従うことが多い。


 それは頭数で等分にすること。


 寄与分が高い人が多く取るということが誰もが納得することだが、それを判断するのはかなり難しい。


 それでパーティーを解散することも珍しくないだけに、等分というのが一番問題が少ないのだ。


「等分でいいぞ。ただ、肉だけは僕に譲って欲しいんだ。食事に使いたいからね」


「なに!? 使うとはどういう事だ? まさか、生で食うというのか? それは止めておいたほうがいいぞ。フォレストドラゴンの肉はたしかに美味いが……火を通さないと……」


 キッチンのことをまだ伝えていなかったか。


「それは大丈夫だ。ちゃんと調理も出来るから」


 ガルーダの表情はなかなか豊かだ。


 半信半疑と言った表情をこちらに向けてくる。


 まぁ、男に……いや、ガルーダに見つめられても嬉しくはないな。


「ロスティ。どうやら、また来たわよ」


 さすがはダンジョンだな。


 群れを倒したと思ったら、またやってきた。


「ミーチャ。ガルーダ。また、頼むぞ!」


「ええ!」


「任せておけ」


 2階層目では、序盤から休み無く、モンスターの群れと遭遇した。


 だが、ガルーダが仲間に入ってくれたおかけで、戦闘は本当に楽だった。


 ガルーダはともかく、仲間を入れるとしたら土魔法使いがいいかもしれないな……。

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