第70話 無限収納

 スキル屋を出た。


 結構な買い物をしてしまったな。


 『無限収納』スキル。


 期待通りになってくれるといいんだけど。


 ん? ミーチャの顔があまりスッキリしていないな。


 こんなに高い買い物をしたのに……何か不満でもあるのかな?


「ミーチャ。なにか、心残りでも?」


「そういう訳じゃないんだけど……私も何か武器を扱えるようになりたいと思ったのよ。折角、武器も買ってもらったんだし。それで『ムチ使い』スキルがあったんだけど……」


 値段を聞くと3千万トルグだというのだ。


 確かに必要性は高そうだな。


 ムチは近接にも長距離とまではいかないまでも、それなりの距離を攻撃範囲とする。


 魔法師でも、魔力節約のために『ムチ使い』スキルを持っている人が多いと聞いたことがある。


 しかし、3千万か……払ってしまうと、回復魔法師への支払いが怪しくなってくるな。


 冒険者はそれなりに大金を稼げる仕事ではあると思うが、一千万トルグを稼ぐには半年は必要となるだろう。


「回復魔法師、次第ってことでいいかな? さっきの支払いで厳しくなっちゃったからな。というか、『料理』スキルよりそっちを買ったほうが……」


「それはないわ!! あれ以上のものはないわ。考えてみて!! ……」


 料理の奥深さを延々と語られてしまった。


 そんなに料理が好きなのだろうか?


 ダンジョンなんて、干し肉で十分なような気もするけど。


 そんなことを考えていたら、ダンジョン外縁に到着した。


 『無限収納』スキルの実験をするつもりだ。


「さてと、どんなものかなぁ……」


「ちょっと待って。ロスティって魔法は使ったことないわよね?」


 もちろんだ。


 一応、魔力を練る訓練は繰り返していたけど……魔力はあまり感じたことはない。


「それはそうよ。魔力はスキルがあってこそ。スキルがなくて、感じることが出来れば、相当なことなのよ」


 そういうものだったのか……


「まぁ、感じたことがあるなら話は早いわね。その魔力を『無限収納』スキルを起動するために流してみて。ただ、どうやるかは多分、スキルごとに違うと思うから教えられないの」


 とりあえずやってみるか。


 『無限収納』スキルをイメージする。


 ダメだな。


 魔力が動いていない感じだ。


 まずは魔力だ。


 体の中の魔力を感じる……おお、ハッキリと感じるな。


 この魔力を練り上げる……


 『無限収納』スキルをイメージ……


 おおっ!


 目の前に大きな空間が浮かび上がってきたぞ。


「これが……『無限収納』か」


「ロスティ、どうしたの? 起動した?」


 どうやら、周りには見えないようだな。


「多分。目の前に真っ黒い空間が出来たんだ」


「さすがね。こんなすぐに使えるなんて……普通は魔法は使える頃に☆2になるっていうくらい、使うまでが難しいものなのよ。そうなると、問題は収納力ね。目標はポーション瓶20本と言いたいところだけど……」


 辺りに落ちている石を拾い、黒い空間に放り込む。


 石は放物線を描いて、空間に触れた瞬間、消えた。


 どこかに落ちた様子もない。


 空間に吸い込まれたか?


「石が消えたわね。収納をしてみたの?」


 頷いた。取り出しは?


 簡単に出来た。


 空間に手をかざすと、ふいに収納されているものが頭に浮かぶ。


 『小石×1』と書いてあった。


 それを取り出すと、念じると真っ黒い空間からぽとりと石が落ちた。


「急に石が出てきたわよ。出し入れが出来たのね」


 ミーチャはよく分かっているなぁ。


 次はどれくらい入るかだ。


 それにしても、拳程度の石が小石扱いなんだな。


「ミーチャ。悪いけど、石や木材を集めてもらえないか?」


 すごく嫌そうな顔をしていたけど、受けてくれた。


 結局、入った量は想像を遥かに超えるものだった。


 腕で抱えるほどの石も軽々収納され、巨木も吸い込まれるように入っていった。


「まさに無限ね。いくらでも入っていっている感じね。まだ、持ってくる?」


 さすがに十分だろう。


 とりあえず、『料理』スキルが使えるほどの食材が収納できればいい話だ。


 ただ、収納力は確認できたが、次の問題は……


「使い続けての魔力消費量よね。こればかりは分かるまで、時間がかかるわね。今のところはどんな感じなの?」


 使い始めてから一時間は経っただろうか。


 体調に問題はなさそうだな。


 魔力も枯渇するような様子もない。


「ロスティはもしかしたら、物凄い魔力の持ち主かも知れないわね。スキル屋も言っていたじゃない? 収納力と魔力は比例するって。多分、その辺の魔法師より魔力は上でしょうね。そうなると……」


 ミーチャは僕にも魔法師のスキルを得たほうがいいのでは、と提案してきた。


 魅力的な提案だったけど、手持ちが乏しいうちは我慢したほうがいいだろうな。


「それよりも『ムチ使い』スキルのほうがいいと思う。ミーチャは攻撃手段がないからね」


「……まぁそうね。同じ魔法師となると思ったら、興奮しちゃったわ。でも、そんなに魔力量があるんなら、絶対に魔法師は考えておいたほうがいいわ。本当に、恐ろしい人になりそうね。ロスティは」


 それを簡単に手なづけているミーチャは何なんだろうか?


 まぁ、それはさておき。


「それよりも『無限収納』スキルは使えそうなことが分かったから、『料理」スキルに挑戦してみようと思うんだ。それには……」


「買い物ね! でも宿には厨房施設がないけど、どうしましょう!? どっかで借りるか……調理器具を買うか……」


 借りる以外の選択肢はないな。


 『料理』スキルもどれくらいのものかが分からない以上は、投資は少ないほうがいいだろう。


 それにダンジョンで使うためのスキルでしょ?


 ダンジョンと言えば……焚き火程度しか料理に使えない。


 それで料理が出来るようにしなければならない。


 なかなか難しそうだな。


「とりあえず、食材だ。厨房は……ギルドで借りられないかな?」


「楽しくなってきたわね。あれ? 考えてみたら、ロスティの手料理初めてかも!! すごく楽しみね」


 確かにその通りだ。


 僕には料理どころか、家事能力は一切なかった。着替えが出来る程度だった。


 今では家事もそれなりに出来るようになったが、料理だけはどうしても出来なかったんだよね。


 ミーチャが気に入ってくれる料理が作れるといいけど……。

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